高エネルギー加速器研究機構(KEK)は9月27日、「平行平板コンデンサの極板の電荷による電場の変動(変位電流)は磁場を作らない」という正しい認識が定着していない要因を指摘し、その詳細を解明することで正しい認識を定着させることを目的とした論文をまとめたことを発表した。
同成果は、KEK 物質構造科学研究所 低速陽電子実験施設の兵頭俊夫協力研究員(東京大学名誉教授)によるもの。詳細は、欧州物理学会が刊行する機関学術誌「European Journal of Physics」に掲載された。
100年前に、量子論の創設者の1人でノーベル物理学賞を1918年に受賞したマックス・プランクは、クーロン電場は変動しても磁場を作れないことを証明しており、コンデンサの極版間の電場もクーロン電場であるため、変動しても磁場を作れないとされるが、理由は不明ながらも、このことをはっきりと書いた電磁気学の教科書は少数派であり続けてきたという。
その結果、コンデンサの極板間の変動する電場がその周囲に磁場を作るという考えが、100年後の現在まで根強く残ってしまっており、いまだに電磁波が発生する仕組みを説明する際の前置きとされているのを見かけることがあると研究チームは指摘している。
そこで兵頭協力研究員/東大名誉教授は今回、コンデンサの極板間の電荷が作るクーロン電場が変動しても周囲に磁場を作ることはないという事実が、100年前に証明されているにもかかわらず定着しないことに対し、その事実を繰り返し述べるのではなく、定着しない理由を解明することで解決を目指すことにしたという。
その理由について、以下の3点のように解明。正しい理解に至るための要点が示されたとする。
- 電場にクーロン電場と誘導電場があることは知っていても、マクスウェル方程式の電場がそれらの和であり、見えないところで別々に電荷の保存と電磁波の存在を独立に担っていることへの認識が不十分であること
- 磁場の計算に使われるアンペール-マクスウェルの法則が因果関係の式と誤認されていること
- アンペール-マクスウェルの法則を用いた磁場の計算が与える第1印象から、誤った因果関係を読み取ってしまうこと
これらに加えて、研究チームでは、実際に流れている通常の電流だけで極板間の磁場を説明する具体的な計算が比較的最近まで行われなかったことも、長い間正しい認識が広まらなかった要因だろうと指摘している。
なお、研究チームによれば、今回の方法が有効に働いて正しい認識が広がれば、世界中の大学の講義や教科書の内容が、一部は修正されることが期待されるという。また、電磁波の発生が極板間のクーロン電場の変動と結びつけて説明されていることがあるが、それも修正されることになるだろうとしている。