そして開発されたSNSPDの11チャンネルの動作確認を行う有効な方法として、量子ネットワークで配信される重要な量子情報の担い手である量子もつれ光子対の評価実験が行われた。量子もつれから得られる情報は、量子力学特有の性質を持ち、古典的には真似できないため、確実に量子力学の性質を捉えていることがわかるとする。

阪大において開発された「タンデム型type-II 疑似位相整合 PPLN導波路」を利用した自発的パラメトリック下方変換(SPDC)により、偏光量子もつれ光子対発生が行われた。このときの励起光は780nmであり、発生した2つの光子は光通信波長帯である1540nmと1582nmになる。

  • SNSPDシステム

    (左)SNSPDを12個搭載した、冷却温度2.16Kに冷却可能な超低温のSNSPDシステム。光信号入力と駆動および信号読み出しのポートを備える。(右)タンデム型type-II 疑似位相整合 PPLN導波路を利用したSPDCによる偏光量子もつれ光子対発生と光子検出システム (出所:NICT Webサイト)

量子もつれ状態を確認するためには、2つの光子の偏光を判別し、SNSPDにより光子検出を行う必要がある。この光子検出の情報をもとに量子状態トモグラフィを行うと、2つの光子の状態を記述する密度行列が再現され、量子もつれの有無を判別することが可能となる。11チャンネルのSNSPDを使って、10回の量子状態トモグラフィが行割れた結果、どのチャンネルでも強い量子もつれが観測され、SNSPDが十分に量子力学の性質を実証できることが確認されたという。

  • 11チャンネルのSNSPDを使って量子状態トモグラフィを行った測定結果

    11チャンネルのSNSPDを使って量子状態トモグラフィを行った測定結果 (出所:NICT Webサイト)

これまで、ハイエンドなSNSPDシステムは欧米中露のスタートアップ企業からの輸入に頼っていたが、今回の成果によって、国産化の可能性が見えてきたという。2050年には実現するであろう、誤り耐性型汎用量子コンピュータの重要な要素技術となり得ることはもちろんだが、その手前にも「NISQ」と呼ばれる、計算過程でおきるノイズによる誤りに対して耐性のない、小中規模(数十量子ビットを超える規模)の量子コンピュータにおいても重要な役割を果たすと考えられるほか、量子暗号通信、量子ネットワーク、量子センシングなど、今後期待される量子2.0技術のさまざまな場面で用いられることが期待されると研究チームでは説明している。