オープンソースのPLMプラットフォーム「Aras Innovator」を提供するAras。2022年9月13日にArasのCEO、Roque Martin(ロッキー・マーチン)氏が来日し、日本市場に期待することやSaaSビジネスの今後について語った。
1年で約37%も売り上げを伸ばすAras
Martin氏は2021年10月20日に、Arasの創業者であるPeter Schroer(ピーター・シュローラ)氏の後任としてCEOに就任。ArasのCEOとしてMartin氏が日本に来るのは今回が初めてとなる。
2022年はArasの日本法人、アラスジャパンができてから10周年となる節目の年だ。この10年で日本で100社以上のユーザーを獲得し、パートナー企業も約30社とビジネス規模を拡大している。
グローバルでもArasのビジネスは好調なようで、2022年時点でAras Innovatorがインストールされているサーバー数は約13万2000を超えるという。
Martin氏は「Arasの直近7年間での平均成長率は1年あたり約37%にも及んでいます。おそらく、PLM業界では1番成長している企業です」という。
また、ユーザーの獲得だけでなく、プラットフォーム提供によるパートナーシップでも売り上げを伸ばしている。2020年1月には、シミュレーションソフトウェア提供の大手企業「Ansys」とライセンス供与を含む戦略的パートナーシップを発表している。同契約を基にAnsysはArasプラットフォームをベースとしてSPDM「Ansys Minerva」を開発し、販売している。
MicrosoftではPLMとAIを組み合わせた活用も
さらに、Martin氏はArasの成長の要因として、2021年4月に発表した「Aras Enterprise SaaS」を挙げた。同サービスは、Aras Innovatorの新しいサブスクリプションサービスで、SaaS形式でPLMシステムを利用できるものだ。
Martin氏はAras Enterprise SaaSについて「SaaSでも機能が限定されておらず、オンプレミスとまったく同じ機能を持っている点が強みです。また、オンプレミスと同じくローコードでカスタマイズできる点もメリット。そして、Arasはずっとオープンな接続性をアピールしてきましたが、もちろんSaaS上でもそれを実現しています」と強みについて語った。
そして、Aras Enterprise SaaSの導入事例として2社の例を挙げた。
1社目は自動車部品といった電磁機器のサプライヤー「Kendrion」の例だ。KendrionはAras Enterprise SaaSを導入。主にローコードでカスタマイズが可能な点を評価しているという。
また、Arasプラットフォームのアップグレードは、クライアントの要望に応じてArasが行うため、Kendrionはアップグレードに関する自社の人的ソリューションやコスト削減についても評価しているという。
もう1つはMicrosoftの事例だ。
MicrosoftはAras Enterprise SaaSをベースとしたPLMシステムを用い、買収した会社の製品情報を取り込んで一元的に管理したり、Azureの変更管理や構成管理にも活用しているという。
また、Microsoftでは、PLMに取り込んだ情報に自社で開発したAIを組み合わせることで、意思決定の参考にするなど、データを有効活用しているのだという。AIを組み合わせることができるのも、Arasのデータにアクセスできるというオープン性が活かされている。このオープン性を用い、MicrosoftのサプライチェーンにもArasへのアクセスを許可。サプライチェーンの情報にもAIを組み合わせ、管理・活用しているのだという。
事例として挙げられた2社は大規模な企業だが、大企業だからAras Enterprise SaaSをはじめとしたArasソリューションを活用できるのかというとそうではないとMartin氏は断言する。
「重要なのは企業の規模ではなく、“製品管理の複雑さ”だと考えています。製品の情報は昔であれば、紙などで管理できていましたが、メカ設計やエレキ設計など製品に関わる複雑さは昔に比べて増す一方です。そういった製品開発や製品情報の管理という部分で会社の規模に関わらず、誰でもArasを活用できます」(Martin氏)
Aras製品は日本の製造業のニーズに応えられる
前述したように日本市場においても順調にユーザーを獲得しているArasだが、Martin氏は日本市場をどう見ているのだろうか。Martin氏は以下のように述べた。
「日本の製造業のニーズとAras製品の特徴が非常に合っていると感じています。というのは、Arasのローコードをはじめとする、機能を自社に合うようにどんどん改善できるという特徴と、日本の製造業の継続的に製品を良くしていこうとする“カイゼン”文化がマッチしていると思うのです。他社のPLMではカスタマイズが難しい部分もありますが、Arasの場合にはカスタマイズが簡単なため、カイゼン文化を持った日本には合っていると思います」
2022年10月でCEOとして2期目を迎えるMartin氏。今後の注力点について「Arasの基盤である技術力をベースに、製品やテクノロジー、SaaSに関する技術を進化させていきたいと思っています。また、パートナーを増やすことにも注力していきたいですね」とした。