東北大学は8月18日、マイクロメートルサイズの孔がハニカム(蜂の巣)状に空いた厚さ数μmの高分子多孔膜と、光架橋性ポリエチレングリコール(PEG)系高分子電解質を複合化することで、リチウム(Li)イオン伝導度が液体と同等で実用性の観点で十分な10-4S/cmクラスで、広い電位窓(4.7V)、高いLiイオン輸率(0.39)を実現したことを発表した。

同成果は、東北大 材料科学高等研究所(AIMR)の藪浩准教授(ジュニアPI/東北大ディスティングイッシュトリサーチャー/同・大学 多元物質科学研究所兼務)、同・グレワル・マンジット・シン助手、同・大学 金属材料研究所の木須一彰助教、同・折茂慎一教授(AIMR所長兼務)らの共同研究チームによるもの。詳細は、生命科学・物理・地球科学などの幅広い分野を扱うオープンアクセスジャーナル「iScience」に掲載された。

リチウムイオン電池(LIB)は、Liイオンが正極と負極の間を行き来することで充放電を繰り返す仕組みで、その場となるのがLiイオン電解質である。通常、Liイオン電解質は耐電圧性やイオン伝導度の関係から、エチレンカーボネート(EC)などの有機電解液や、それらをゲル化したものが使われている。しかしながらこれらの有機電解質は可燃性であるため、ケースが破損した際に空気(酸素)に触れると発火するなどの危険性があった。

これらの観点から、衝撃に強いLiイオン電解質として、PEGなどによる高分子固体電解質の研究が進む。しかし、PEG系高分子電解質は室温付近で結晶化するため、室温でのLiイオン伝導度が10-6S/cm程度まで低下するという課題があった。

これまで研究チームでは、両末端に架橋基を組み込んだ「ポリエチレングリコールジアクリラート」(PEGDA)と、短鎖のPEG(tetraglyme)で溶媒和したリチウム塩を混合し、紫外線を用いた光架橋により固化することで、室温で10-5S/cm程度のLiイオン伝導度を示す固体高分子電解質の開発に成功している。

同電解質は、室温での急激なイオン伝導度の低下を架橋によって抑制できる上、簡便に多様な電極材料表面に形成可能で、ハンドリングする上で、十分な力学的特性を備えていることが特徴となっている。しかし、実用的な伝導度を得るためには、さらなる性能向上が求められていたという。