九州大学(九大)は6月10日、見かけ上同等である試料に潜む熱力学的な差異が固体中のイオン輸送を時には1桁ほど変化させ得ることを、ナトリウムイオン伝導固体「Na3SbS4」をモデル電解質として用い、理論と実験の両面から明らかにしたことを発表した。

同成果は、九大工学府 応用化学専攻の下田昌季大学院生、同・前川舞有大学院生、九大工学研究院 応用化学部門の大野真之助教、同・林克郎教授、同・赤松寛文准教授、同・吉田傑学振特別研究員(研究当時)、米・コロラド鉱山大学のプラシュン・ゴライ助教らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学学会が刊行する化学とその関連分野全般を扱う学術誌「Chemistry of Materials」に掲載された。

従来の有機電解液を利用したバッテリーに対し、安全性に加え、高い蓄エネルギー性能を実現できることから、全固体電池の開発が急ピッチで進められている。しかし、現行の有機電解液の代替となる、イオンを通す無機固体電解質のイオン輸送性能は、研究報告レベルでもばらつきが顕著であり、その原因の解明や高い伝導を再現性良く得る手立ての検討が望まれていた。

無機化学においては、まったく同じ構造を持っていて一見すると同じように見える材料であっても、化学ポテンシャル(材料を構成する各原子が持つエネルギー)が異なる値を取り得るという、物性や特性などを評価するのにわかりにくい一面がある。この値に差があると、構造中の欠陥濃度にも差異が現れ、その結果、電子やイオンの輸送も変化してしまうという。

今回の研究では、固体電解質でも同じことが確認され、見かけ上は同等である試料の化学ポテンシャルの差異が、固体中のイオン輸送を時には大きく変化させ得ることが明らかにされた。これは、ほしい物性を最大限生活かせるように化学ポテンシャルを制御することが必要となることを意味しているという。