キャンパスでしか得られない経験とは何か
では、「リモートでは得られない経験」とは何か。
近年は多くの大学がリモートでの講義を推進しており、渥美氏自身も「世の中ではリモートが本流になりつつある」と話す。しかしその一方で、渥美氏は、近大が掲げる建学の精神のもとでは、キャンパスでの生活を欠かすことはできないとする。
「実学教育と人格の陶冶を目指す上で、学生の人間形成という点を大切にしたいと考えている。人間関係の中で作られる人としての成長のためには、対面授業や課外活動も含めたキャンパスの生活が不可欠だ」
そう語る渥美氏によると、対面での授業とリモート講義の差は、特にディスカッションの質に表れ、「リモートではどうしても議論が活発になりにくい」という。また、学生からは「友達ができない」という声も届いているとのことだ。
講義も人間関係を構築する場の1つ
近大では初年次の必修カリキュラムとして、1クラスが7~8人から十数人程度の「基礎ゼミ」が開講されている。話し合いを伴うグループワークが中心の同講義では、活発な対面でのコミュニケーションによって、友人同士の交友関係が培われているという。
このように、講義の中でも友人関係の醸成や人間としての成長の機会は多く、その質を高めるためには対面でのコミュニケーションが不可欠だとする渥美氏。「近大に通う学生たちに、キャンパスへ足を運んでほしいと思うか」との問いに対しては、次のように答えた。
「もちろん感染症対策を徹底した上で、ぜひキャンパスに来てほしい。
理論を学ぶことで完結する講義であれば、リモートでも進行することは可能だが、学生同士に限らず教員からしてもコミュニケーションは取りづらい。
教員の指導も、対面での会話や実体験があってこそ伝えられるものがあると感じていて、その面でもやはり我々は対面での時間というのを重視したい」
対面とリモートの「いいとこどり」教育
対面活動の重要性を強調する渥美氏だが、同時にリモート教育のメリットも取り入れるべきだとする。実際に近大で行っているリモート講義は、受講学生の満足度が高く、受講環境の柔軟性や授業内容のレベル向上などの点で優れた点があるという。
今後も、移動や時間帯に縛られないオンデマンド科目の選択肢を残すことで、「学生の学びに対する要望になるべく応えられる環境を用意したい」と話し、もしコロナ禍を脱却したとしてもリモート教育の活用は続くと予想した。
近大が求めるのは「学ぶ意欲を持つ学生」
インタビューの最後に、「入学してほしいと思うのはどんな人か」との問いを投げかけた。渥美氏から返ってきた答えは、「学ぶ意欲を持つ人」だった。
「学びたいという姿勢があって、自分を磨きたい、自分を成長させたい、という意欲を持っている人に来てほしい。教育の質を高め、キャンパスの施設や設備を充実させることで、そのような学生の意欲を最大限実現させることが、1番大切だと思う。
ただ、もちろん学ぶ意欲があっても、入学の時点で将来の目標を明確に持っていない学生は非常に多い。これはもはや仕方のないことで、それに対して我々は、1年生の時から少しずつ働きかけて、将来像を描くための意識付けをしていきたいと考えている。
近大が掲げる『実学教育』は、社会の実になり役に立つ人を育てるという意味でもある。近大での学びの時間を通して、さまざまな角度で社会の役に立つ人材を輩出していくために、充実した教育や設備を提供できるように努めたい」
そう話す渥美氏の言葉には、可能性を秘めた学生への期待と、教育者としての使命感が感じられた。
近大生の可能性を広げるキャンパスづくり
一見すると華やかなキャンパスの刷新は、「建学の精神」に基づいた教育を提供するための基礎作りに過ぎない。近大の門を叩いた学生は、学びがあふれる充実した環境で過ごす時間を経て、どのような姿で羽ばたくのか。未来の可能性を広げるため、近畿大学のキャンパスはさらに価値を高めていくことだろう。