近畿大学(近大)は7月19日、さまざまな臓器・組織由来のがん細胞株を一定期間、安定して培養可能な無血清培地を開発したことを発表した。

同成果は、近大大学院 農学研究科の滝井詩乃大学院生、同・大学農学部 生物機能科学科の岡村大治講師に加え、米・テキサス大学サウスウェスタンメディカルセンターの研究者も参加した国際共同の研究チームによるもの。詳細は、米オンライン科学誌「PLOS ONE」に掲載される予定だという。

世界保健機関(WHO)によると、2000年から2019年までの20年間における世界の死因の第1位は虚血性心疾患、第2位は脳卒中で、いずれも動脈硬化性疾患となっている。その治療や予防には、血清総コレステロールを低下させる効果がある薬として「スタチン」が用いられているが、一方でスタチンによる低コレステロールが腫瘍の発症や悪性化を引き起こすという報告もなされている。

現在も、がん細胞の増殖とコレステロールの相関性を定義づける統一的な見解には至っていないが、その原因の1つが、がん細胞株の培養に広く用いられている「ウシ胎児血清」にあるという。一般的にがん細胞株を含むあらゆる動物細胞を培養する際、出産前のウシ胎児の血液から採取された血清を培養液に混ぜることによって、安定した増殖性・接着性を維持できることが知られている。

しかし、ウシ胎児血清は1000種類以上の成分で構成されており、多くのコレステロールや脂質を含んでいるため、その培養下で低コレステロールの環境を作ることが難しく、がん細胞でのコレステロールや脂質の役割を解析する上で大きな障害となっているという。

そこで研究チームは今回、多くのがん細胞株に最適化され、組成のすべてが明らかになっている無血清培地で解析を行うことが、コレステロールとがん細胞増殖の相関性を解析するための必要不可欠な条件であると考察。ウシ胎児血清を混ぜない、無血清培地の開発を目指すことにしたという。

従来の無血清培地では、多くのがん細胞株が剥離して細胞死を起こしてしまうことが課題であったことから、今回の研究では、哺乳類細胞の培養に幅広く使用されている基礎培地の「ダルベッコ変法イーグル培地」、細胞膜の安定性や細胞保護成分として働く「(ウシ胎児血清)アルブミン」、低血清条件で多種多様な細胞の増殖を刺激する「インスリン-トランスフェリン-セレニウム-エタノールアミン」を加えた後、培養皿に細胞外マトリックス糖タンパク質「フィブロネクチン」がプレコートされ、無血清培地条件「DA-X培地コンディション」(DA-X培地)が作製された。