日本原子力研究開発機構(原子力機構)は7月29日、次世代量子コンピュータへの応用が期待されている「トポロジカル超伝導物質」の候補であるウラン化合物「ウランテルル化物」(UTe2)の新しい結晶育成法を考案し、結晶の純良化と超伝導性能の向上に成功したことを発表した。
同成果は、原子力機構 先端基礎研究センター 強相関アクチノイド科学研究グループの酒井宏典研究主幹らの研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する材料科学とその関連分野全般を扱う学術誌「Physical Review Materials」に掲載された。
近年、量子コンピュータ素子としても注目されている超伝導は通常、電子が2個ずつスピンを逆向きに打ち消し合うペア(電子対)を組むことで起こるが、極めて希に、同じ向きのスピンを持った電子対を生じることがあるとされている。
このようなスピンをそろえる超伝導は、理論的にトポロジカル超伝導体候補として注目されている。この新しいタイプの超伝導物質はまだ数例しか見つかっていないが、ウラン化合物で候補物質が次々と見つかっており、物性物理学の最前線となっているという。UTe2は、そのような超伝導候補の1つである。
これまでUTe2の単結晶は、化学輸送法という方法で作られてきたが、同方法では、温度差や原料の仕込み量など合成条件の最適化が難しく、当初から、UTe2の超伝導研究において、単結晶の品質が問題となっていたという。理由としては、報告ごとに超伝導転移温度や超伝導特性に、大きな「ばらつき」が見られたことが挙げられており、今回の研究での最初の重要なステップは、このばらつきの原因が、ウラン元素の欠損であることに気がついた点だと研究チームでは説明している。