そのため今回の研究では、UTe2のウラン元素を欠損させない新しい単結晶育成方法が考案された。具体的には、合成条件を単純化できるフラックス法を使うことにしたとする。フラックス法とは結晶の育成方法の1つで、溶液から結晶を育成する手法であり、今回の研究では液体の代わりに、塩化ナトリウム(NaCl)と塩化カリウム(KCl)を混ぜた「塩」が用いられたという。

NaClもKClもどちらも融点は約800℃と高いが、両者を混ぜると、約650℃まで下がる。この「塩」と、UTe2原料であるウランやテルルをさまざまな比率で溶かし、高温の950℃からゆっくりと冷却が行われた。この方法は「溶融塩フラックス法」と命名された。

  • 溶融塩フラックス法による単結晶育成手順

    溶融塩フラックス法による単結晶育成手順 (出所:原子力機構Webサイト)

同方法では、比較的単純に合成条件を最適化することが可能なことが特徴だという。熱処理をした後にできた「塩とUTe2の塊」から「塩」を水で洗い流すと、単結晶を取り出すことができるとする。

  • (左)UTe<sub>2</sub>の結晶構造。(右)ウラン元素欠損の概念図

    (左)UTe2の結晶構造。(右)ウラン元素欠損の概念図 (出所:原子力機構Webサイト)

さまざまな混合比で単結晶育成を試した結果、超伝導転移温度は、従来の方法では平均して絶対温度1.8K(-271.35℃)程度だったが、2.1K(-271.05℃)を超える単結晶が安定して得られるようになったという。

  • (左)UTe2単結晶を取り出した様子

    (左)UTe2単結晶を取り出した様子。(右)UTe2単結晶の比抵抗率の温度依存性 (出所:原子力機構Webサイト)

同時に、単結晶品質の指標である電気抵抗の残留抵抗比(RRR)も、これまでの最高値88を大きく超えて、1000という桁違いに大きな値に到達したとする。このことは、これまで問題となっていたウラン欠損を限りなく取り除いたことを意味するという。超伝導の本質を調べるために単結晶の純良化は重要で、溶融塩フラックス法が、その決定打となったとしている。

なお、今回の研究で考案された溶融塩フラックス法は再現性が良く、原料混合比や溶融塩の量を同じにすれば、純良単結晶が安定して得られるとする。このことは、超伝導の本質に迫る実験研究を後押しするとしており、研究チームでは、今回の研究成果について、次世代量子コンピュータへの応用が期待されるトポロジカル超伝導の基礎研究を加速させ、新規物質開発に寄与するとしている。