京都大学(京大)は7月7日、窒素分子(N2)の還元反応を行う酵素を模倣する「金属-硫黄クラスター錯体」を合成し、N2還元反応の「シリル化反応」を実現したと発表した。

同成果は、京大 化学研究所の大木靖弘教授、同・松岡優音大学院生、同・谷藤一樹助教、名古屋大学の唯美津木教授、米・ハワイ大学のロジャー・E・クレイマー教授、スリランカ・コロンボ大学のW・M・C・サメエラ准教授、同・高山努教授、同・酒井陽一教授、東京大学の西林仁昭教授、同・栗山翔吾助教らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」に掲載された。

強いN≡N三重結合を持つN2は反応性に乏しいため、その還元は非常に困難とされる。その証拠として、N2と水素(H2)からアンモニア(NH3)を合成する工業反応のハーバー・ボッシュ法は高温高圧が必要であり、人類が使うエネルギーのうちの1~2%が投入されているとされ、同時に大量のCO2が排出されることが問題視されている。

自然界では、一部の微生物が酵素「ニトロゲナーゼ」を用いて窒素固定を行っているが、このような酵素反応を人工的に再現できれば、環境的な負荷なしにN2還元反応を実現できることなる。そのため、鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、硫黄(S)、炭素(C)で構成される酵素活性中心「FeMoco」の詳細な構造や機能を再現しようと、長年研究が続けられてきたという。

しかし、FeMocoの構造は三次元的に複雑なため、N2還元機能との関係を解釈することは困難だという。加えて、FeMocoによるN2還元はタンパク質に保護された状態でのみ起こることや、金属と硫黄から合成された従来のFeMoco関連分子(金属-硫黄クラスター錯体)がN2を還元できなかったことなどの未解決の謎があり、N2還元を人工的に再現するためのハードルとなっていたとする。

そこで研究チームは今回、酵素に関する生化学分野の知見を精査した上で、(1)どのようにN2がFeMocoに結合するのか、(2)なぜタンパク質に保護されなければFeMocoがN2を還元できないのか、の2点について化学の視点から仮説を導き、条件を満たす人工分子(金属-硫黄クラスター錯体)を設計・合成することにしたという。