東北大学、北海道大学(北大)、宮城大学、アジュール エナジーの4者は1月19日、産業廃棄物であるホヤ殻に含まれるセルロースナノファイバー(CNF)を炭化すると品質のよい炭素となること、ならびに畜産業から出る廃棄血液中にはヘム鉄や窒素・リンなどの元素が含まれていることに着目し、これらを混合・焼成することでさまざまなヘテロ元素が導入された、各種電池用触媒に適した「ナノ血炭」が合成できることを実証したと発表した。

同成果は、東北大 材料科学高等研究所の藪浩准教授らの研究チームによるもの。詳細は、材料科学に関わる全般を扱う学術誌「Science and Technology of Advanced Materials」に掲載された。

血炭は、炭に動物の血液をかけて焼成することで得られるもので、炭素が持つ吸着能と、焼成時に複合化されたヘム鉄などの血液由来のヘテロ元素成分がもたらす触媒作用によって漂白剤などとして用いられてきたという。 現代においても、ヘテロ元素を導入した炭素材料(ヘテロ元素ドープ炭素)は有用な炭素材料として利用されており、中でも炭素網面に窒素(N)やリン(P)、さらには鉄(Fe)が4つのピリジン環で錯化されたFeN4構造などが導入された炭素は多様な電気化学反応を触媒できることから、電極触媒としての応用が期待されている。

例えば、酸素還元反応(ORR)は燃料電池や金属空気電池の正極における放電時の反応として知られているほか、ORRの逆反応である酸素発生反応(OER)はリチウム空気電池に代表される金属空気二次電池の充電時の反応として知られている。しかし、従来のORR・OER触媒の多くがレアメタルを用いる必要があり、高価であったり、資源的な制約を受けるなどの課題があった。そのため近年、ヘテロ元素ドープ炭素が代替触媒として注目されるようになってきたという。

一方、ホヤは東北・三陸地方の特産として知られているが、食用部を除いたホヤ殻は産業廃棄物となるため処理が問題となっていた。

実はホヤはセルロースを産生する動物であり、その多くがCNFとして殻に蓄積されており、殻から抽出されるCNFは高い結晶性を有し、炭化すると導電性の良い炭素となることが知られていた。また、畜産業から出る廃棄血液も、乾燥させた乾燥血粉は窒素やリン、ヘム鉄由来の鉄分などの養分を大量に含むため、肥料として利用されているものの、廃棄される場合、河川の生物要求酸素濃度(BOD)を上昇させるため、その処理が課題となっていた。

これまで研究チームでは、FeN4構造を持つ青色顔料の一種である「鉄アザフタロシアニン」を炭素材料に担持することにより、Pt/Cに匹敵するORR触媒が得られることを確認していること、ならびにホヤ由来セルロースを「ポリドーパミン」などの窒素含有ポリマーで被覆し、焼成することでORR触媒として機能することも確認していることを踏まえ、ホヤ殻由来CNFと乾燥血粉を混合して焼成すれば、窒素、リン、FeN4構造を導入したヘテロ元素ドープ炭素が合成できるのではないかと考察。

  • ナノ血炭

    今回の研究の概念図 (出所:東北大プレスリリースPDF)

ホヤ殻から抽出したCNFと血粉をさまざまな比率で混合させ、温度を変えて焼成することにより、CNF由来のナノサイズの炭素構造と血粉由来のヘテロ元素がドープされ、ORR・OERの両方に高い活性を持つ両性電極触媒のナノ血炭の合成法を見出すことに成功したとする。

  • ナノ血炭

    合成されたナノ血炭の走査型電子顕微鏡像。ホヤ殻由来CNFの焼成により、炭化したナノファイバーと血炭成分が混合している (出所:東北大プレスリリースPDF)

また、合成されたナノ血炭のORR・OER性能を調べたところ、性能指標である開始電位の差ΔEは936mVと、高性能な金属空気二次電池の電極触媒として知られるPt/Cの940mV、IrO2/Cの920mVとそん色ないことが判明し、次世代の両性電極触媒として期待できる性能が示されたとする。

  • ナノ血炭

    横軸に電位、縦軸に電流値をとった場合のORR・OER反応。水中での酸素発生電位を境に、ORRはより高い電位、OERはより低い電位で電流が流れる(ΔEが小さい)ことが高性能両性触媒の条件となる (出所:東北大プレスリリースPDF)

なお、研究チームでは、今回の研究から見出されたナノ血炭の合成手法は、バイオマス素材の特徴を複合化することで、高性能・高機能な炭素材料を実現する新たな手法として期待されるとしている。

  • ナノ血炭

    代表的なナノ血炭のORR・OER性能。ΔE=936mVはPt/Cなどのレアメタル触媒に匹敵する値 (出所:東北大プレスリリースPDF)