東京都市大学理工学部自然科学科、国立科学博物館地学研究部らの研究グループは、ウラジオストクの南に位置するルースキー島において世界最古級の魚竜化石を発見したと2022年4月27日に発表した。

詳細は学術誌「Scientific Reports」に掲載されている。

これまであまり注目されていなかった極東ロシアの魚竜化石が、中生代の海生爬虫類の初期進化を探るためには重要であるとした上で、他の海生爬虫類化石への展開が期待できるという。

では、この発見から何が分かったのだろうか。

世界最古級の魚竜化石発見から見えてきたもの

東京都市大学らの研究グループは、ロシア東部沿海州地域の前期三畳紀スパース世前期(約2億4900万年前)の地層から、世界最古級となる原始的な魚竜(魚鰭類)化石2標本を発見した。この発見は一体何が画期的だったのだろうか。

その前に、魚竜についていくつか特徴を解説するとしよう。

魚竜は魚に似た体形をしているが、肺呼吸をする海の爬虫類であり、容姿はイルカに似ている。三畳紀の間に現在のシロナガスクジラなどのヒゲクジラ類に匹敵するほど大型化し、三畳紀後期紀から白亜紀にかけては首長竜と並んで、海洋生態系の頂点捕食者のひとつとして君臨していた。

しかし、恐竜などが大量絶滅した白亜紀末期(約6600万年前)よりも前の白亜紀中ころ(約9400万年前)に絶滅し、現在は生存していない。

そして、その魚竜の起源については、近年、中国などの前期三畳紀の地層から原始的な魚竜や魚竜に近縁な爬虫類の化石が発見されたことで理解が進みつつあった。しかし、これまで発見されたものの中で最古級(スパース世前期)である魚竜化石は、全長1m以下の小さなもの、あるいは断片すぎて全長把握が困難であるものだけであった。

そのため、スパース世前期の段階では、魚竜の大きさはまだ小さかったと考えられていたのだ。

一方、スパース世中期以降の魚竜の化石としては、まれに5mを超えると思われる大きな個体の一部が発見されることもあり、前期三畳紀のうちに巨大な魚竜が生息していたと考える研究者もいた。しかし、化石が埋まっていた地層がはっきりしないなどの理由から、初期の魚竜が巨大化したとする説に懐疑的な意見もあった。

今回発掘された魚竜の化石は、国立科学博物館の調査隊が、アンモナイトなどの化石研究のため極東ロシア沿海州を継続的に調査していた中で、アンモナイト化石とともに発見されたものである。

  • 中生代の空・海・陸の主な動物の生息期間およびジトコフ層の年代についての概略図(出典:東京都市大学プレスリリース)

    中生代の空・海・陸の主な動物の生息期間およびジトコフ層の年代についての概略図(出典:東京都市大学プレスリリース)

アンモナイトは、形態進化のスピードが早く、化石として全世界で大量に見つかるため、地層の年代を決定する「示準化石」としてよく用いられている。

そして、今回発掘されたこれらの化石が採取されたのが、前期三畳紀スパシアン期前期の地層であるジトコフ層下部だったのだ。

魚竜は中生代三畳紀に現れ、1億6000万年にわたって海で繁栄したが、今回の化石発見は歴史の中でも最初の約300万年以内というかなり初期に現れた魚竜ということになる。

  • 今回発掘された2個体の原始的魚竜の骨化石。左は全長約2.5メートルの原始的魚竜の脊椎骨など。右は全長約5メートルの原始的魚竜の上腕骨。(出典:東京都市大学プレスリリース)

    今回発掘された2個体の原始的魚竜の骨化石。左は全長約2.5mの原始的魚竜の脊椎骨など。右は全長約5mの原始的魚竜の上腕骨(出典:東京都市大学プレスリリース)

発掘された化石は、直径3cmほどの脊椎骨2点やその突起部分、肋骨などが含まれるものと、長さ約13cmの骨が含まれるものであった。分析をおこなった結果、脊椎骨などの小さい骨は、2.5mほどの原始的な魚竜のものであることがわかった。

約13cmの骨については、中期三畳紀に生息した大型の原始的な魚竜の上腕骨に類似していたことなどから、体長5mほどの大型の原始的魚竜の上腕骨であると結論づけられた。

また、骨の内部構造を調べたところ、爬虫類としては異様なほどに骨密度が低く、現在のクジラのようにスポンジ状の軽い組織でできていたのだ。

骨の内部構造は、陸上動物の場合、地面からの抗力に耐え、かつ軽量化をするために、緻密な壁で覆われた筒状になるが、水中生活に適応した動物の場合、陸上で体重を支える機会がほとんどないため、骨は浮力調節のためスポンジ状に軽くなっている。

このことから、今回発掘されたロシアの原始的な魚竜は、陸での生活を離れて遠洋や深海でエサを取るなど、海での生活に十分適応していたことを示している。

  • 今回発見された大型魚竜の上腕骨の断面(右)とCT画像(左)(出典:東京都市大学プレスリリース)

    今回発見された大型魚竜の上腕骨の断面(右)とCT画像(左)(出典:東京都市大学プレスリリース)

今回の魚竜の化石発見により、魚竜は300万年以下という地質学的に見てごく短期間のうちに、海での生活に完全に適応した。また、現在のホホジロザメやシャチに匹敵する体長5mまで大型化し、生態系ピラミッドの頂点に立っていたと研究グループは結論づけたのだった。

  • 古生代末の大量絶滅後、時間の経過に伴って魚竜が巨大化した過程を示した図。赤色部分は今回発見された魚竜である

    古生代末の大量絶滅後、時間の経過に伴って魚竜が巨大化した過程を示した図。赤色部分は今回発見された魚竜である(出典:東京都市大学プレスリリース)

化石発掘とは歴史との壮大な答え合わせのようなもの。今回のような発見があると、実際に目にすることのできない遥か昔の古代生物の生活を、ほんの少しでも垣間見ることができたような気がするのではないだろうか。