住宅の売買仲介と賃貸仲介を行う三菱地所ハウスネットでは、賃貸部門が2021年度から「業務効率化プロジェクト」をスタートさせた。5年かけて、業務の20%を削減することを目標にしたプロジェクトだ。

前年の2020年度からは、どんな業務を効率化させていくのかの洗い出し作業を開始。各部署が担当する業務について、どんなタスクがあり、それぞれどれくらいの時間がかかっているのかをすべて洗い出した。洗い出したタスクは500を超えたという。

そして、これらすべてのタスクについて改善の余地があるかどうかを見極め、「外注する」「システム化する」「その運用を廃止する」「運用フローを改善する」という、4つの対応に分けていった。

例えば、「物件の写真を撮る」「物件の掃除をする」という業務は外注できるといった具合だ。その後、4つそれぞれにどんな解決策があるかを考えていったという。最終的に同社では、「業務効率化プロジェクト」で改善するタスクを、効果が高いと見込まれる15個に絞ったという。この15のプロジェクトが2021年度からスタートした。

「各部署で共通の課題として挙がったのが、情報共有の部分でした。部署間の情報共有はかなり厳しい状態だと思いました。情報を得たい方は情報が共有されていないと感じ、情報を提供する方は、共有しているが伝わっていないと感じていました。例えば、物件受託時にオーナー様から注意事項として言われた内容が、賃貸の契約担当者に伝わっていないなどです。それらの情報はデータ化されておらず、付箋で伝えようとしていたということが一番多かったです。そこで、まず、共有すべき内容をデータ化することを始めたいと思ました」と語るのは、プロジェクトを主導する三菱地所ハウスネット 賃貸業務企画部の村元英明氏だ。

  • 三菱地所ハウスネット 賃貸業務企画部 村元英明氏

具体的には、サイボウズのkintone(キントーン)を導入し、これまでシステムに入力していなかったデータ、あるいはExcel等で管理していたデータをクラウド上で共有できるようにした。そして、入力の負担を軽減するため、同じデータを重複して入れることがないようにデータ連携したという。

「同じ内容を打ち直すというのは、非常に面倒でミスも生まれやすいので、今回のプロジェクトにおいてはデータのつなぎの部分が重要でした。その部分でアシストさんのサポートをいただきながら、DataSpider Cloudを導入し、基幹システムのデータもkintoneに入れ、kintoneを見れば、すべてのデータが見られるという状況にしました。いわば、kintoneをフロントエンドのシステムとして利用した形です」(村元氏)

さらに入力の負担を軽減することや、入力する情報に過不足がないように、ラジオボタンやチェックボックスなどを活用した。ラジオボタンやチェックボックスは、集計しやすくするメリットもあったという。さらに、細かな情報を入れられるように、文章で入力できるエリアも設けたという。

  • 三菱地所ハウスネットのシステム概要(出典:アシスト)

システムはスモールスタートとし、機能を随時追加していくリリース方式を採用した。

「一般的には業務をシステム化する際、あらゆる業務をシステム化しようとします。そうすると、システムは100点満点でなければならないという意識になり、これまで手書きでやっていたことも、すべてシステムでやらないといけなくなります。そうなると、アプリの規模が膨大になり、設計工数も増えます。そのため、今回のプロジェクトでは、まずは最低限の目標達成だけを考えて進めました。当然、ああしたい、こうしたいという要望はどんどん出てきますので、その機能は目標を達成するために必要かどうかを考えてもらい、そうでなければリリースまでのMUST要件からは外していきました。東名高速道路を例にすれば、東京から名古屋までに行くということが目的なので、道路さえ作れば、途中のサービスエリアはとりあえずなしでいいという説明をしていました」(村元氏)

システムは内製化

システム開発は、基本、内製でアプリを作っていくこともポイントだったという。kintoneやDataSpiderを選択した理由として、この部分も重視したという。

「外部のSIerさんに依頼するとコストがかかるので、アシストさんのセミナーに出たときに、DataSpiderであればシステム屋ではない自分でもできそうな気がして、採用を決めました。最初は、一部をSIerさんに作成してもらい、その技術を学びながら自分たちでも作成し、徐々にスキルを貯めていきました。導入した製品はノーコード・ローコードでアプリが作れるものなので、今後は、作成できる人材を増やしていきたいと思っています。部署間にまたがるようなアプリはわれわれが統括しながら作成する必要がありますが、各部署の便利ツールに関しては、各部署で作っていってもらえればと思っています」(村元氏)

内製化はコスト的なメリットがある一方、業務自体の見直しが進まず、現状のワークフロー自体の生産性が低い場合も、そのままシステム化される可能性があるというデメリットもある。しかし、同社はあえてそうしたという。

「アプリは、現場の要望を取り入れながらシステム化するようにしました、確かに、効率化の面では即効性が下がりますが、ハレーションが起きにくくなります。最悪なのは、作っても使ってもらえないことなので、できる限り、現場の希望を重視しました。俯瞰的に見れば、『それって本当に必要?』と思えることも、現場の経験上、必要なもので、必要な理由はある。そのため、この部分は尊重するようにしました」(村元氏)

リリース前には社員向けに操作説明を行うとともに、「なぜ、このシステム化をやるのか」、「これによってどれくらい効果が上がるのか」、「それによって会社の利益がどれくらい出るのか」も説明したという。

内製のため、最初の1カ月は多くのバグが見つかったということだが、自分たちで作っているため直す費用も安く、時間的にも早く修正できたという。

6月時点では計画する15のプロジェクトのうち8つが完了しており、今年度中に残りの部分もリリースする予定だ。その後は、終了した15のプロジェクトの効果を最大化することに取り組むほか、営業業務の効率化にも取り組む予定だ。

完了した8つプロジェクトについて村元氏は「いい効果は出せていると思います」と手応えを感じていると語った。

そして同氏は、今後取り組む営業業務の効率化について、「確度の高いオーナー様にどれだけ弊社を選んでいただけるかが勝負だと思います。そのためには、弊社の信頼性、競争力(高い賃料で貸し出せる)がポイントになると思います。これに必要となるのがデータで、これまで手書きだった範囲に対してBIツール等を活用してデータ化していきます。弊社の場合、仲介会社にお客様(借り手)を紹介してもらう事が多いため、仲介会社に対するアプローチを強化する必要があります。また、オーナー様の満足度を高めるために賃料もアップする必要があり、物件のバリューアップの提案も積極的にチャレンジしていく必要があります」と語った。