ガートナージャパンは6月16~17日、「2022 Application Innovation & Business Solutions Summit - Japan」をオンラインにて開催した。本稿では、「CXの先にある成功を勝ち取り、成長に貢献する」と題して行われた、同社 リサーチ&アドバイザリ部門 シニア ディレクター アナリストの川辺謙介氏のセッションをレポートする。

  • ガートナージャパン リサーチ&アドバイザリ部門 シニア ディレクター アナリストの川辺謙介氏

経営者と現場で異なるCXへの対応

市場競争の激しい今、商品そのものや価格で差別化することが難しくなっている。代わって、購入を決める根拠として重視されるのは、「顧客がどのように感じて判断するか」ということ。この「顧客がどのように感じるか」という部分がすなわち、カスタマーエクスペリエンス(CX)である。では日本企業がCXを本格的に追求する上での課題は何か。

川辺氏はここで、企業の経営者側と従業員側でCXに対する考えや対応に乖離があることを指摘する。経営者は「我が社は顧客第一である」と声を上げるものの、現場は実務に追われ、“本当に”顧客のことを考えた対応ができていない状況になっていることが往々にしてあるという。また、企業側が優れたCXだと思っていても、顧客側はそう思っていない場合もある。「問い合わせが増えているから、チャットボットを使うことで問題解決までの時間を短縮する」というような顕在化した課題に対する対応ではなく、根本的にCXを改善するとはどういうことなのだろうか。

ガートナーではCXを「提供企業の従業員、チャネル、システムまたは商品とのインタラクションがもたらす1回の、または累積的な効果によって、顧客が得る認識や関連する感情と定義している。「より良いCXを実現するためには、顧客が行う一連の行動を全方位からサポートする必要がある」というのが、川辺氏の見解だ。

  • 顧客を中心としたサイクルのイメージ図/出典:ガートナー(2022年6月)

「CX向上は、個々のアプリケーションを改善するだけでは実現しません。全社で一貫性をもって提供しなければいけないのです」(川辺氏)

続いて川辺氏は、同社が提唱する「CXを成功に導く9つのケイパビリティ」を紹介。顧客を理解した上で、合理的、戦略的に計画を立てた上で、部門をまたぐ全社的な調整が欠かせないと説明した。

  • CXを成功に導く9つのケイパビリティ/出典:ガートナー(2022年6月)

川辺氏は、このケイパビリティを基にした世界の企業のCX成熟度モデルを示し「CX成熟度は少しずつ向上しているが高いとは言えない状態」だと説明する。

「仮に、自社の現状がレベル1だからと言って悲観するのではなく、着実に努力を続けていくことが(CX向上のために)重要です」(川辺氏)

  • カスタマーエクスペリエンス成熟度モデル(2020年)/出典:ガートナー(2022年6月)

また、川辺氏によると、日本企業においては、これまでのやり方ではCX向上に取り組むのは難しいという。その理由は、労働力・リソース不足だ。デジタルツールの複雑化、顧客のニーズの多様化が進む一方、リソースを潤沢に確保することが難しい状況の今、「従来のように頭数と時間で解決するのは限界がある」(川辺氏)のだ。