こちらの機器が何をするものかお分かりになるだろうか。
これはガスメーター用のNCU(Network Control Unit)「スペース蛍」。ガスメーターの使用量データを電子的に読み取り、フォーマット変換後に無線を使ってクラウドへ送信することができるIoT装置だ。
日本瓦斯(ニチガス)は、同装置の各家庭への設置を進めている。同装置を使用することで、従来は検針員が各家庭まで行かないと計測できなかったデータを、遠隔で1時間に1回自動で計測しリアルタイムでデータを把握することが可能となる。2020年から設置を開始し、2022年現在、約100万台以上の設置が完了したという。
スペース蛍はニチガス、SORACOM、UnaBiz(Sigfox)、京セラコミュニケーションシステム(KCCS)の提携で開発され、スペース蛍が行っている“データをクラウドへ送信する”部分を担う通信機を開発したのが2016年にシンガポールに本社を置くスタートアップ、UnaBizだ。
UnaBizは、Sigfox、LTE-M、NB-IoT、LoRaなどの低電力広域(LPWA)テクノロジーを用いたセンサ製品の設計、製造、およびクラウドプラットフォームサービスといったIoTサービスを提供している。
今回、UnaBizの共同設立者で共同CEOを務めるHenri Bong氏に2022年4月に行ったSigFoxの買収や2022年5月に発表したソフトバンクロボティクスとの提携を含めた日本市場での展開について話を伺う機会をいただいた。
Sigfoxやソフトバンクロボティクスとの提携などビジネスを拡大するUnaBiz
同社は、2022年4月に、IoT向けにLPWA技術を提供してきたフランスのSigfoxを買収した。 Henri Bong氏はUnaBizを設立する以前は、Sigfoxでビジネス開発とセールスディレクターを務めていたという。アジア圏でのパートナー獲得なども担当していた。
「Sigfoxはフランスの中でもテックカンパニーとしてシンボル的な存在でした。フランスの最初のユニコーン企業(創業10年以内にして10億ドル以上の評価額が付けられている非上場のベンチャー企業)です。我々が(オーナーに)選ばれた理由は大きな会社だからではなく、ニチガスの事例など実績が認められたためです。ビジネスとして成功している事例があるということが、フランスの方々にも受け入れられた理由と考えています」(Henri Bong氏)
UnaBizのマーケットは、フランスをはじめとしたヨーロッパが1番大きく、南アフリカなどにも展開されているという。日本も、冒頭のニチガスでの採用実績を含めるとトップ5に入るマーケットとなるようだ。
Henri Bong氏は「日本は、どちらかというと保守的な国だと思っているため、我々のような海外の企業でニチガスのような大きなビジネスの実績ができたことを、とても誇りに思っています」という。
UnaBizの強みをHenri Bong氏は「超低コスト、超低消費電力で駆動でき、シンプルにシステムを組めるところが強みだと考えています。例えば、ニチガスのスペース蛍は電池で15年間駆動することができます。我々としては、さらにそういった強みを強化するためにより小さなバッテリーでの駆動を可能にしたり、エナジーハーベストでバッテリーなしでも駆動するようなシステム構築を目指し、研究開発を進めています」としている。
同社は、日本でのビジネス展開も強化しており、2022年5月にはソフトバンクロボティクスとの提携を発表している。両社の提携の狙いはどこにあるのだろうか。
「ソフトバンクロボティクスが開発しているロボットは非常に賢いロボットです。そして、UnaBizのIoT技術やセンサを用いることでロボットをより賢くすることができると考えています。センサからの情報でロボット自体がどこにいくべきかなどを判断するといったことです。掃除ロボット(筆者注:ソフトバンクロボティクスはWhizシリーズという清掃ロボットを販売している)で例えると、建物にセンサを取り付け、その情報を活用すれば、より効率的な清掃が行えるでしょう」(Henri Bong氏)
UnaBizは今後、アセットトラッキング(ヒトやモノの状態把握)、計測、施設管理といった分野でのビジネスの拡大を狙っていくとのことだ。
また現在、東南アジアの工場でスマートファクトリー向けの実証も進めている。東南アジアは日本企業の工場も多いため、そこへの展開も視野に入れているという。
UnaBizはこのようなIoTビジネスを通じどのような世界を目指しているのだろうか。
「我々はただ装置を接続するだけでなく、装置それぞれがより活かされ、継続して使われるにはどうしたらよいかという観点を持っています。IoTでどういう目的を達成するのかを考えて行動することが重要です。ニチガスの事例は、細かなデータが取れるようになっただけでなく、ガスの検針にかかっていた人手や、そこにかかる労力を減らすことができたことに加え、検針にかかっていた(車での訪問などで発生していた)二酸化炭素の排出量を減らすこともできました。世界をIoTでつなげることで、よりサステナブルな世界をつくれるような企業になっていきたいと考えています」(Henri Bong氏)