米国航空宇宙局(NASA)は2022年6月2日、宇宙ステーションや月面での船外活動で宇宙飛行士が着用する新しい宇宙服を開発するため、米民間企業2社と契約したと発表した。

選ばれたのはアクシアム・スペース(Axiom Space)とコリンズ・エアロスペース(Collins Aerospace)。NASAは両社が開発する宇宙服をレンタルし、国際宇宙ステーション(ISS)やその後継機での船外活動や、有人月探査計画「アルテミス」で使用する。日本人宇宙飛行士もこの宇宙服を着用し、月面を歩く日が来るかもしれない。

  • 次世代宇宙服を着て、月面で探査活動を行う宇宙飛行士の想像図

    次世代宇宙服を着て、月面で探査活動を行う宇宙飛行士の想像図 (C) NASA

xEVAS計画

NASAは現在、ISSを2030年まで運用し、その後も2020年代後半に民間企業が開発、運用する宇宙ステーションに宇宙飛行士を送り込むことを計画している。さらに、欧州や日本、カナダなどとともに進めている「アルテミス」計画では、2025年以降にアポロ計画以来約半世紀ぶりとなる有人月探査を行い、その後も継続的に月面を探査。さらに2030年代以降には有人火星探査を行うことも目指している。

こうした中、宇宙飛行士が宇宙ステーションの船外で作業する際に着用する船外活動用宇宙服は、老朽化が進み、使える数も限られてきている。また、月や火星の地表で活動するための宇宙服もない。

このため、NASAでは新しい宇宙服を開発する「xEVAS (Exploration Extravehicular Activity Services)」計画を進めてきた。

この計画の特徴は、複数の民間企業がそれぞれ開発するというところにある。基本的には民間企業が自社資金で開発し、また完成後の所有権も企業側が持つ。NASAはこれらの企業からレンタルする形で使用する。

NASAは当初、船外活動宇宙服を自ら開発することを計画していたが、民間企業に主体的に開発させ、さらに複数社で競わせる開発モデルに変更している。この背景には、ISSのへの物資輸送や宇宙飛行士の輸送において同様の手法が成功し、スペースXなどによる商業ミッションが定着したことがある。民間企業が主体となることで、コスト削減や技術革新を促進するとともに、複数の宇宙服を開発することで冗長性、確実性を確保するという狙いもある。

NASAは資金援助のほか、過去の宇宙服の開発や運用で得られた知見データも提供する。

アクシアム・スペースは2016年に設立された企業で、テキサス州ヒューストンに拠点を置く。宇宙飛行、旅行の手配や仲介、サービスの販売を行っており、今年4月には4人の「民間宇宙飛行士」をISSに送り込んでいる。将来的にはISSに自社製のモジュールを結合したり、単独で商業用の宇宙ステーションを運用したりすることも目指している。

コリンズ・エアロスペースは、航空宇宙・防衛大手のレイセオンの子会社で、ノースカロライナ州に拠点を置く。宇宙機向けの電子機器、地球センサー、リアクション・ホイール、磁力計、磁気トルカなどの製造では最大手として知られる。また、長い吸収・合併の歴史をたどれば、アポロ計画で宇宙飛行士が月面を歩く際に使った宇宙服や、現在NASAの宇宙飛行士がISSの船外で活動するときに着用している宇宙服の設計を手掛けてきた流れがある。

契約期間は2034年までで、プログラムの総額は35億ドルとしている。この間に、両社は与圧服、生命維持装置、電子機器を設計、開発。そして、ISSやその後継となる民間ステーションを使った、地球低軌道での船外活動の技術実証に始まり、2025年以降に予定されている「アルテミスIII」ミッションにおける、アポロ計画以来約半世紀ぶりの有人月探査での使用を目指す。さらに、その後のステーションや月での活動など、継続的にサービスを提供することも求められている。

また、アルテミス計画には日本や欧州などの宇宙飛行士も参加することから、日本人宇宙飛行士がこの宇宙服を着て月面を歩く日も来るかもしれない。

なお、アクシアム・スペースは、船外活動のシステムの訓練や、運用のリアルタイムでのサポートも提供する。また、自社の宇宙ステーションに飛行する顧客に着用させることも想定しており、宇宙旅行者が同社の宇宙服を着て宇宙遊泳を行う可能性もあるとしている。

同社の社長兼CEOのMichael Suffredini氏は「私たちの宇宙服のアプローチは、NASAをはじめとするさまざまな顧客の船外活動のニーズや運用シナリオに対応するため、コスト効率のいい開発、試験、訓練、展開、そしてリアルタイムの運用を可能にする、発展可能な設計を提供します」と語る。

またコリンズ・エアロスペースのシニア・テクニカル・フェローで元NASA宇宙飛行士のDan Burbank氏は、「次世代の宇宙服は、より軽く、よりモジュール化され、より体にフィットし、そして簡単に適応できます。つまり、宇宙のどこへ行くにしても、あらゆる可能性に準備ができているのです」と語っている。

計画を主導するNASAジョンソン宇宙センターのVanessa Wycheセンター長は、「この取り組みにより、NASAとパートナーは、人類がこれまでとは違う世界を探検できる、先進的で信頼性の高い宇宙服を開発することができます」と語る。

また、NASAのアルテミス計画開発部門の副部門長を務めるMark Kirasich氏は、「商業的なパートナーシップは、私たちの有人探査の目標を実現するのに役立ちます。NASAの地球低軌道における存在感の継続と、人類をふたたび月に送り込むという将来の偉業に向け、商業パートナーのサービスを利用することを期待しています。産業界との協力と、60年以上の宇宙開発を通じて得たNASAの知見を活用することで、これらの目標を達成できるものと確信しています」と語っている。

NASAはまた、得られた技術や実績を、2030年代以降に計画している有人火星探査の宇宙服にも生かしたいとしている。

  • アクシアム・スペースの宇宙服の開発の様子

    アクシアム・スペースの宇宙服の開発の様子 (C) Axiom Space

  • コリンズ・エアロスペースが開発中の宇宙服の試作品

    コリンズ・エアロスペースが開発中の宇宙服の試作品 (C) Collins Aerospace

参考文献

NASA Partners with Industry for New Spacewalking, Moonwalking Services | NASA
Axiom Space wins NASA Contract to Build Next Generation Astronaut Spacesuits - Axiom Space
News | Collins Aerospace selected to Outfit the Next Generation of Space Explorers | Collins Aerospace