米航空宇宙メーカーのボーイングは2022年5月26日、新型有人宇宙船「スターライナー(Starliner)」の無人飛行試験「OFT-2」に成功した。
5月20日の打ち上げ後、軌道上での運用や国際宇宙ステーション(ISS)とのドッキングなどを実証し、26日に地球へ帰還。計画していたすべての試験項目を達成したという。
スターライナーは2019年にも無人飛行試験を行ったが、トラブルが相次ぎ事実上失敗。今回無事にリベンジを果たし、有人での飛行試験に向けたすきをつないだ。
スターライナーOFT-2ミッション
今回のミッションは「軌道飛行試験2 (OFT-2、Orbital Flight Test-2)」と呼ばれ、スターライナーにとって2度目となる無人での宇宙飛行であり、今後の有人での飛行試験や運用ミッションの行方を左右する、きわめて重要なものだった。
スターライナーOFT-2は「アトラスV」ロケットに搭載され、5月20日7時54分(日本時間、以下同)、米フロリダ州のケープ・カナベラル宇宙軍ステーションから離昇した。
ロケットは順調に飛行し、離昇から約14分50秒後、スターライナーを分離した。
その後、スターライナーは所定の軌道に乗るため、「OMAC」と呼ばれるスラスターを噴射。12基あるスラスターのうち2基が故障するというトラブルに見舞われたものの、バックアップのスラスターに切り替えて噴射したことで事なきを得た。
そして打ち上げから丸1日経ったのち、国際宇宙ステーション(ISS)に接近。一時ドッキング装置に小さな不具合が出たものの、最終的に予定から1時間遅れでドッキングに成功した。
ハッチ展開後には、ISS滞在中の宇宙飛行士がスターライナー内に入り、船内を点検。また、将来の宇宙船の長期滞在に備えて、ISSとの間で電力や通信の統合性を確認するなどの作業を行った。
約5日間の係留後、26日3時36分にスターライナーはISSから離脱。大気圏に再突入し、パラシュートやエアバッグを展開。そして7時49分、ニューメキシコ州にある米陸軍のホワイト・サンズ・ミサイル試験場内に設けられた着陸施設、「ホワイト・サンズ・スペース・ハーバー」に無事着陸した。
NASAとボーイングは、「打ち上げから軌道投入、打ち上げ時の緊急事態検知システムの検証、ISSへのランデヴーとドッキング、宇宙飛行士の居住性、軌道離脱と地球へ帰還など、計画していたすべての試験項目を達成した」としている。
今回は無人のミッションだったが、船内には将来の有人飛行に備えてさまざまなデータを取得するために、マネキン人形が搭乗。第二次世界大戦中に工場などで働いていた女性を指す「ロージー・ザ・リベッター」にちなみ、「ロージー」と名付けられた。
また、打ち上げ時にはISSへ227kgの物資が運ばれた一方、ISSから実験装置など272kgの物資が持ち帰られた。
着陸成功後、NASAのビル・ネルソン長官は「私たちとボーイングは、米国の宇宙船で米国の地からISSへの有人宇宙飛行をより多く実現するための大きな一歩を踏み出しました」との声明を発表した。
「今回のOFT-2ミッションは、人類の利益となる革新をもたらし、発見を通じて世界にインスピレーションを与えることを可能にする、協力の力を象徴するものです。この宇宙飛行の黄金時代は、粘り強く情熱を注いだ、何千もの人々による貢献なくして実現しなかったでしょう」。
ボーイングの商業クルー・プログラムの責任者を務めるマーク・ナッピ(Mark Nappi)氏は「私たちは、この複雑なシステムの素晴らしい飛行試験を成し遂げました。期待どおり、その過程から多くのことを学ぶことができました」と語っている。
「OFT-2の完了により、私たちは学んだ教訓を取り入れ、今後の有人飛行試験とNASAからの認証を受けるための準備に取り組み続けます」。
スターライナーとは?
スターライナーはボーイングが開発中の有人宇宙船で、ISSや、民間企業が開発する商業宇宙ステーションに宇宙飛行士を輸送することを目的としている。
コードネームはCST-100(Crew Space Transportation-100)で、また愛称のスターライナーは、B787の愛称ドリームライナーなどに合わせたものでもある。
直径は4.56m、全長は5.03mで、機体は宇宙飛行士が乗るクルー・モジュールと、太陽電池やスラスター、バッテリーなどが搭載されているサービス・モジュールに分かれている。
クルー・モジュールには最大7人の飛行士が搭乗でき、耐熱シールドなど以外の主要な構造物は、最大10回の再使用を可能としている。船内にはボーイングの旅客機B787やB737にも採用されているLED照明「Sky Lighting」や無線インターネットが備えられているほか、韓国のサムスンとの技術協力により、タブレット型の操作パネルも採用されている。
サービス・モジュールには、発射台上や飛行中のロケットから脱出する際に使う4基の強力なスラスターのほか、姿勢制御や軌道変更に使うスラスターが集まったポッド状のOMACを装備。底面には太陽電池を装備している。
そのほか、船体は無溶接設計を採用。また自動化技術により完全な自律航行が可能で、それにより乗組員の訓練時間の短縮を実現。さらに、民間航空機での知見で得られたベストプラクティス(ある結果を得るのに最も効率のよい方法)が採用され、緊急時にパイロットが手動で制御することもできるようになっている。
同時期に開発されたライバルであり、ともに米国の有人宇宙飛行の任を背負うスペースXの「クルー・ドラゴン」と比べると、NASAからの要求が同じこともあり、大きさや性能などはよく似ている。
一方、スターライナーは陸上に着陸するのに対し、クルー・ドラゴンは海に着水したり、コクピットにタッチパネルを多用しているクルー・ドラゴンに対し、スターライナーは物理スイッチが多かったりと、異なる点も多い。
また、飛行コストについては、NASAの監察総監室(OIG)からの2019年のレポートによると、1座席あたりの平均コストはクルー・ドラゴンが5500万ドル、スターライナーが9000万ドルと算出されている。スペースシャトルなど過去の宇宙船と比べるとスターライナーも十分に安価ではあるものの、クルー・ドラゴンが安さが際立っている。
さまざまな違いはあるものの、ともに21世紀の宇宙船にふさわしい性能、能力を兼ね備えていることは間違いないだろう。