理化学研究所(理研)と熊本大学(熊大)は5月27日、有袋類の「ハイイロジネズミオポッサム(オポッサム)」の新生仔は、ほ乳類で最長となる出生後2週間以上にわたって心臓を再生させる能力を持つことを発見したことを発表した。

同成果は、理研 生命機能科学研究センター(BDR) 心臓再生研究チームの西山千尋テクニカルスタッフ、同・齋藤祐一 基礎科学特別研究員、同・坂口あかね研究員、同・木村航チームリーダー、理研 BDR 生体モデル開発チームの金子麻里テクニカルスタッフ、同・清成寛チームリーダー、自治医科大学 分子病態治療研究センター 再生医学研究部の魚崎英毅准教授、熊大 国際先端医学研究機構の有馬勇一郎特任准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、心血管の健康と疾患に関する全般を扱う学術誌「Circulation」に掲載された。

ヒトを含めてほ乳類の成体の心筋細胞には再生能力がない。しかし、胎仔期および出生直後の新生仔期のほ乳類は例外とされているが、それも調べられた限り胎盤を持つ真獣類のほ乳類のほとんどにおいて、生後数日以内に失われることが分かっている。この細胞分裂の停止は、胎仔期の器官形成から出生後の器官成熟への切り替わりが、出生のタイミングに対応しているためと推測されている。

しかし、ほ乳類の中でもカンガルーに代表される有袋類については、超未熟仔の状態で誕生するため、器官形成から器官成熟への切り替わりと出生のタイミングが乖離しており、そのことから、出生後に心筋細胞が細胞分裂を継続しているか、また心臓再生能を維持しているかはこれまでわかっていなかったという。

有袋類では数少ない確立されたモデル動物の1つであるオポッサムは体長が約15cmほどであり、14日間という短い妊娠期間を経てほかの有袋類同様に未熟な新生仔を産む(育児嚢(袋)がないため、仔は母親の乳房にしがみついて離乳期まで過ごす)。そこで研究チームは今回、理研で飼育・維持されているオポッサムを用いて、新生仔の心筋細胞が細胞分裂を継続するか、またそれと同調して心筋再生能を維持しているのかを調べることにしたという。

オポッサム新生仔の心筋細胞の細胞分裂の観察を実施したところ、出生後2週間時点での心筋細胞の細胞分裂の頻度は、出生直後のマウス新生仔のそれと同程度であること、そしてその2か月後までの間で細胞分裂が停止することが確認されたという。

  • ほ乳類の種間比較による心筋再生の分子機構の同定

    ほ乳類の種間比較による心筋再生の分子機構の同定 (出所:理研Webサイト)