また、生後2週間のオポッサム新生仔に対して心筋の損傷や心機能の回復状況の経時的な計測が実施されたところ、心筋再生能を持つことを確認したとするほか、出生後1か月が経過するとそれが失われることも確認したという。この期間は、これまでに調べられたほ乳類の中では、心筋再生能を出生後に維持している期間としては最長になるという。

  • オポッサム新生仔の心筋細胞の細胞分裂

    (左)オポッサム新生仔の心筋細胞の細胞分裂。上段は、出生後1日および7日の心筋組織の免疫染色像。赤色が心筋で、緑色が分裂細胞。下段は、マウスおよびオポッサム新生仔について、出生後の日齢と心筋細胞の細胞分裂の頻度を比較したグラフ。(右)オポッサム新生仔の心筋再生能力。出生後14日(上段)および29日(下段)で心筋梗塞または偽手術(心筋梗塞なし)を受けたオポッサム新生仔の、心エコーによる経時的な左室駆出率計測(グラフ)と、トリクローム染色(青色)による梗塞部位の線維化の検出。出生後14日では左室駆出率が次第に回復し、線維化も見られないことから、心臓の機能的・形態的な再生が起きていることが確認された (出所:理研Webサイト)

さらに、細胞分裂を停止させるトリガーを調べることを目的にオポッサム新生仔の心筋組織に対するトランスクリプトーム解析が行われたところ、オポッサムの心臓では出生後2週間前後で、「AMPKシグナル」と呼ばれる細胞内シグナル伝達に関わる遺伝子の発現が強く誘導されていることが見出されたとする。

AMPKシグナルの活性化が心筋細胞の細胞分裂停止を誘導している可能性が示されたことから、マウスとオポッサムの両方の新生仔に対して、AMPKシグナルの阻害剤を投与してその活性化の抑制が試みられたところ、いずれの新生仔においても心筋細胞の細胞分裂停止が抑制され、マウスでは出生後7日、オポッサムでは出生後28日でも心筋細胞が細胞分裂していることが確認されたとするほか、AMPKシグナルの活性化を出生後の心筋細胞でのみ抑制できるコンディショナルノックアウト(KO)マウスを用いた実験からも、AMPKシグナルの抑制が心筋細胞の細胞分裂停止を抑制することが確認されたという。

なお、今回の研究成果は、新生仔の持つ心臓再生能の分子機構の一端を明らかにするとともに、心臓再生研究の新たなモデル動物としてオポッサムの持つポテンシャルを示すものであり、オポッサムには子宮外環境でも心筋細胞が細胞分裂を継続するための特有の仕組みが備わっていることが示唆されるとしている。

今後は、その詳細なメカニズムを追究し、ヒトを含むほ乳類の成体においても心筋細胞の細胞分裂を活性化する方法を発見できれば、心臓の再生医療戦略の確立に貢献することが期待できるとしている。