高エネルギー加速器研究機構(KEK)は5月20日、ナノ結晶軟磁性材料を使った高性能モーターにおいて、高周波数領域におけるエネルギー損失の原因が、金属内部のある種の摩擦現象であることを、コンピュータシミュレーションを用いて明らかにしたことを発表した。

同成果は、KEK 物質構造科学研究所の塚原宙研究員(現・協力研究員)、産業技術総合研究所 エレクトロニクス・製造領域の今村裕志研究チーム長、物質・材料研究機構の三俣千春 特別研究員、豪州・モナッシュ大学の鈴木清策教授、KEKの小野寛太 特別教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の材料科学全般を扱うオープンアクセスジャーナル「NPG Asia Materials」に掲載された。

モーターの主要部品を担う軟磁性材料の中でも結晶粒の大きさを10nm程度に小さくしたナノ結晶軟磁性材料は、低い保磁力および低い電気伝導率を実現することから、回転力発生時に発生するエネルギー損失を抑制でき、優れた材料とされている。

  • モーターにおける動作原理の概念図

    モーターにおける動作原理の概念図。モーター内部に存在する軟磁性材料に交流磁場をかけると、大きな磁場が発生しモーターが回転する。これは軟磁性材料内部で磁区構造が変化することにより起こる。磁区と磁区の間には磁区の境界である磁壁がある (出所:KEKプレスリリースPDF)

しかしナノ結晶軟磁性材料にも、周波数の1.5乗でモーターのエネルギーを損失してしまうという課題があり、高周波数領域でエネルギー効率を低下させてしまっていたという。電磁鋼板などの材料では局所的な電流がエネルギー損失の原因であるとされるが、ナノ結晶軟磁性材料では電気抵抗が高く電流が流れないため、その原因は不明だった。

この奇妙なエネルギー損失との関係を疑われていたのが、ナノ結晶軟磁性材料が磁化されると原子間に力が働くことで生じる、結晶格子の歪みである「磁歪」であり、磁歪が大きいほどエネルギー損失が大きくなることは実験で知られていたが、エネルギー損失の発生機構そのもの仕組みは不明だったという。

そこで研究チームは今回、交流外部磁場によるナノスケールの磁化および磁歪応答を調べるため、マイクロ磁気シミュレーションを新たに開発することにしたという。同シミュレーション技術はスピントロニクスや磁性材料研究に広く用いられているが、ナノ結晶軟磁性材料における磁歪効果を正確に計算した例はなかったとする。

具体的には、ナノ結晶軟磁性体における磁歪を正確に計算できる手法を考案。スーパーコンピュータ上で動作する、磁歪効果を含めたマイクロ磁気シミュレーターを開発することに成功した。