理化学研究所(理研)と東京大学(東大)は5月20日、合成直後の清浄な表面を持つ架橋カーボンナノチューブ(CNT)に、「量子欠陥」と呼ばれる発光体を導入する手法を開発したことを発表した。

同成果は、理研 光量子工学研究センター 量子オプトエレクトロニクス研究チームの小澤大知基礎科学特別研究員、同・加藤雄一郎チームリーダー(理研 開拓研究本部 加藤ナノ量子フォトニクス研究室 主任研究員兼任)、理研 開拓研究本部 加藤ナノ量子フォトニクス研究室の石井晃博特別研究員(研究当時)、同・大塚慶吾訪問研究員(研究当時)、東大大学院 工学系研究科 機械工学専攻の項栄准教授(研究当時)、同・井ノ上泰輝助教(研究当時)、同・丸山茂夫教授、米・メリーランド大学 生化学科のシャオジャン・ウー博士研究員、同・ジェイコブ・フォートナー大学院生、同・ユーファン・ワン教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

CNTの量子欠陥と呼ばれる発光体は、光通信に使われている近赤外光領域(波長1200~1600nm)で発光すること、また室温で単一光子を発生することから、ナノフォトニクスや量子情報処理技術への応用を念頭に置いた研究が進められている。

合成直後の清浄なCNTをシリコン(Si)基板の溝に架橋したまま利用できれば、一般に用いられる溶液分散のCNTと比較して数倍の発光効率を示すため、高性能な量子光源が得られることが期待されているものの、量子欠陥を導入する既存の反応は溶液中でしか適用できないため、これまで架橋CNTに対して用いることができなかったという。

そこで研究チームは、溶液プロセスを介さない方法として、有機分子の蒸気を用いた反応に着目。気相化学反応による架橋CNTへの量子欠陥導入を実証することを試みることにしたとする。

具体的には、まずSi基板の幅約0.5~3.0μmの溝にCNTを多数合成して架橋。そのSi基板と有機分子のヨードベンゼンをガラスセルに封入し、ヨードベンゼンの蒸気をCNTに吸着。紫外線を照射し、光化学反応を起こすことで、架橋CNTにヨードベンゼンがまばらに結合した量子欠陥が導入された。