その後、世界中でテリジノサウルス類化石標本が増加し、その手に関する情報も増えたことから、さらなる議論が可能となったことを受け、北大 総合博物館の小林教授をはじめとする共同研究チームは今回、中川町の標本の再研究、ならびに詳細な再記載、系統学的な解析、爪(末節骨)の形の幾何学的形態計測分析、古生物地理学的解釈などを行うことにしたとする。

その結果、パラリテリジノサウルスは、第1中手骨の高い扁平度(高さが幅の半分以下)、第1・第3末節骨の近位部に発達するdorsallip、第3末節骨の側面にある浅い窪み、近位部腹側に発達する大きなventral process、縮小したflexor tubercleなど、ほかのあらゆるテリジノサウルス類には見られない固有な特徴があったことから、新属新種であることが判明したという。

  • パラリテリジノサウルスの末節骨と固有な特徴

    パラリテリジノサウルスの末節骨と固有な特徴(右)。赤丸の数字は、本文に記されている特徴。テリジノサウルス類の系統樹(50%majority-rule合意樹) (出所:プレスリリースPDF)

この恐竜は海の地層から発見されたことから、海岸線に棲んでいたテリジノサウルスの仲間であると推測された。そこで、“日本の海岸に棲むテリジノサウルス”という意味を持つ、「パラリテリジノサウルス・ジャポニクス(Paralitherizinosaurus japonicus)」と命名された。

さらに今回の研究では、テリジノサウルス類の爪(末節骨)の形に基づいた解析なども実施。その結果、筋肉のつき具合と爪の先に力を加える効率が、テリジノサウルス類の進化の中で小さくなっていったことが明らかになったという。特にパラリテリジノサウルスやテリジノサウルスは値が小さく、弱い力で熊手のように近くの枝をたぐり寄せて葉っぱを食べていたという可能性が示唆されたとしている。

パラリテリジノサウルスは、日本で発見されたテリジノサウルス類として3例目で、日本において最も新しい時代からのテリジノサウルス類の化石となるとされるほか、パラリテリジノサウルスは、アジアの最東端の記録であり、海成層から発見されたテリジノサウルス類としてアジア初の記録であると同時に、世界でも2例目の記録となったとする。

  • 北海道の恐竜化石産地

    (左)北海道の恐竜化石産地。一番北に位置する中川町が今回の資料の発見地。(右)パラリテリジノサウルスのシルエットと末節骨。(c)増川玄哉氏 (出所:プレスリリースPDF)

これらのことから、日本にはテリジノサウルス類が長い期間生息していたこと、アジアではテリジノサウルス類がより広い生息域を持っていたこと、そしてより多様な環境に適応していたことが示されることとなったとのことで、研究チームでは今後のさらなる発掘・研究によって、日本独自の視点から恐竜類の進化を解き明かしていくことにつながるとしている。