東北大学と日本原子力研究開発機構(JAEA)は4月14日、量子相対論効果である「スピン軌道相互作用」により、「創発インダクタ」の機能がねじれた磁気モーメントを必要としない、より普遍的な(空間的に一様な磁気構造を持つ)磁性材料で生じることを理論的に明らかにし、「スピン軌道創発インダクタ」と命名したことを発表した。

同成果は、東北大 学際科学フロンティア研究所の山根結太助教、東北大 電気通信研究所の深見俊輔教授、JAEAの家田淳一研究主幹らの研究チームによるもの。詳細は、米物理学会が刊行する主力学術誌「Physical Review Letters」に掲載された。

インダクタンスは、ねじれた導線(コイル)で実現され、その原理は1830年代に発見された。以来、現在に至るまで、インダクタはすべてコイルを利用しており、成熟した技術と考えられてきた。

そうした中、近年、量子技術に基づく創発インダクタが発見された。らせん磁性金属で観測された創発インダクタは、電流と、らせん磁気秩序を形成する「磁気モーメント」との間のエネルギー変換を利用することで、電流の急激な変化を抑制するというインダクタとしての働きを実現することが知られている。

そのエネルギー変換を媒介するのが、電子スピン間に働く量子効果の交換相互作用であり、この作用に起因して、電流は磁気モーメントのダイナミクスを誘起し(スピン移行トルク)、それが起電力を生成するとされている(スピン起電力)。スピン移行トルクとスピン起電力はいずれも、磁気モーメントの向きが空間的に非一様なときに生じる現象であるため、従来のインダクタのようにコイルを必要としないが、その代わりとなる空間的に「ねじれた磁気モーメント」が必要になるという。

しかし、創発インダクタはまだ謎も多く、これまでに観測されている実験結果と基礎理論の間には、未解明のギャップもあるとされている。

そこで研究チームは今回、量子効果の交換相互作用に加えて、量子相対論効果であるスピン軌道相互作用に着目。その2つの効果の複合的作用により、導線と磁気モーメントのどちらにも「ねじれのない」系、すなわち、向きが一様な磁気モーメントを持つ磁性体においても、創発インダクタが発現することを理論的に明らかにし、「スピン軌道創発インダクタ」と命名したとする。

  • 今回の研究で予言されたスピン軌道創発インダクタ

    今回の研究で予言されたスピン軌道創発インダクタと、これまで知られていたインダクタの比較 (出所:東北大プレスリリースPDF)