東京工業大学(東工大)は3月24日、月のような大きな衛星が形成される条件を調べるため、質量の異なる地球に似た岩石惑星と氷の惑星をいくつか設定し、コンピュータ上で衝突シミュレーションを実行したところ、地球の6倍以上の質量を持つ岩石惑星と、地球の1倍以上の質量を持つ氷の惑星は、衝突時に完全に蒸発した円盤を形成してしまうため、大きな衛星を作ることができないことがわかったと発表した。

同成果は、米・ロチェスター大学の中島美紀助教、米・アリゾナ大学のエリック・アスフォーグ教授、東工大 地球生命研究所(ELSI)の玄田英典准教授、同・井田茂教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

太陽系の8つの惑星は水星と金星を除けば、みな衛星を従えているが、それぞれの惑星に対する衛星のサイズは、地球の月ほど大きなものはほかに存在しない。地球の直径が約1万2700kmなのに対し、月の直径は約3500kmと、おおよそ1/4であり、質量はおよそ80分の1ほどとされている。

月はこの巨大な質量をもって、海の干満や自転速度を遅くしたことによる気候の安定など、地球にさまざまな影響を与えていることが知られており、生命の進化にも関与している可能性が指摘されている。そのため、生命が存在する惑星を探すときには、月のような大きな衛星を持つかどうかを手掛かりにすることが有用であると考える科学者も少なくないという。

月は、約45億年前に、原始地球に火星サイズとされる仮説上の天体「テイア」が衝突することで形成されたと考えられている。正面衝突ではなかったため地球は完全破壊を免れたが、衝突の衝撃で地球の一部とテイアが融解して飛散。地球の周りには、融解した岩石と部分的に蒸発した岩石が混合した円盤が形成されることとなった。円盤を構成する大部分の岩石などは地球に落下したが、残ったものが集積して最終的に月が形成されたというメカニズムが提唱されている。

  • 月形成メカニズムの仮説

    約45億年前、原始地球に火星サイズの大きな衝突体テイア(仮説上の天体)が衝突し、地球の周囲に部分的に蒸発した円盤が形成され、それが月になったと考えられている (C)NASA/JPL-Caltech (出所:東工大 ELSI Webサイト)

研究チームは今回、月のような大きな衛星が形成される条件を調べるため、この衝突によって月が誕生したとする仮説のもと、質量の異なる地球に似た岩石惑星と氷の惑星をいくつか設定し、コンピュータ上で衝突シミュレーションを実施、どのような衛星が誕生するのかを調べることにしたという。

その結果、地球の6倍以上の質量を持つ岩石惑星と、地球の1倍以上の質量を持つ氷の惑星は、衝突時に完全に蒸発した円盤を形成してしまうため、月のような大きな衛星を作れないことが導き出されたとした。

一般的に、巨大な惑星同士の衝突は、小さな惑星同士の衝突よりもエネルギーが高いため、衝突によって完全に蒸発した円盤が形成されるが、時間とともに冷却された円盤には、衛星の元となる液体の小衛星が出現するものの、この小衛星は蒸発した気体による強いガス抵抗を受けて、あっという間に惑星に落下してしまうという。

  • 月クラスの衛星の形成条件

    太陽系の惑星とその衛星。大きさが地球より60%以上大きい、または質量が地球の6倍以上の岩石惑星(左上の惑星)、および地球より30%以上大きい、または地球1個分の質量の氷の惑星(右上2つの惑星)では、巨大衝突による大きな衛星の形成は不可能であることが明らかにされた (C)Nakajima et al., Nature Communications (出所:東工大 ELSI Webサイト)

研究チームは今回の研究成果から、衝突で完全に蒸発した円盤が生じるサイズの惑星では、月のような大きな衛星を形成することはできないと結論づけており、大きな衛星を持つためには、惑星の質量は、今回の研究で設定されたしきい値よりもさらに小さく設定される必要があるとしている。

また、これまでの系外惑星の探査では、地球の質量の6倍以上の大きさの惑星が対象とされてきたが、研究チームはより小さな惑星に注目することを提案するともしている。これは、今回の研究成果で判明した、小さな惑星の方が大きな衛星を持つ候補として有力だという点からだとする。

なお、現在も系外惑星の発見は進められており、現地時間3月21日にNASAがその数が5000を突破したことを発表(正確には5005個)している。今回の研究により、数多くの系外惑星の中から探索する際の条件を狭めることができるようになると研究チームでは説明しており、現在のところ、太陽系外衛星は発見されていないが(候補はすでに多数存在している)、いたるところにあることが期待されるとしている。