東京大学、アストロバイオロジーセンター(ABC)、科学技術振興機構の3者は12月6日、NASAの系外惑星探索衛星「TESS」と地上望遠鏡の連携により、138光年先に発見した系外惑星「TOI-2285b」が地球の約1.7倍の半径を持ち、日射量が地球が太陽から受ける量の約1.5倍という、これまでに発見された系外惑星の大半より弱い日射を主星から受けていることを発表した。

同成果は、東大大学院 総合文化研究科 附属先進科学研究機構の福井暁彦特任助教、東大大学院 理学系研究科 地球惑星科学専攻の木村真博大学院生、ABCの平野照幸助教、東大大学院 総合文化研究科 広域科学専攻・附属先進科学研究機構の成田憲保教授らの研究チームによるもの。詳細は、日本天文学会の英文学術誌「Publications of the Astronomical Society of Japan(PASJ)」にオンライン掲載された。

NASAの「ケプラー宇宙望遠鏡」は、2009年から2018年の活動で4000個以上の系外惑星を発見してきた。そうして発見された系外惑星の中には、地球に近い生命の存在が期待される温暖かつ小型のものが多数含まれている。しかし、ケプラー宇宙望遠鏡で発見された惑星系の大半は太陽系から500光年以上遠方に位置し、主星が暗い赤色矮星であるため、惑星の質量や大気組成といった詳細な情報を得ることが困難であり、詳細を確認できていない。

そこで現在、ケプラー宇宙望遠鏡の後継機に当たるTESSが、全天の明るい恒星を対象に系外惑星の探索を行っている。ただし、ケプラーやTESSなどの宇宙望遠鏡による観測で発見できるのは、あくまでも惑星の「候補」であり、それらが間違いなく惑星であると確認するためには、候補天体をより詳細に観測し、検証を行う必要がある。

  • 系外惑星

    これまでに発見された系外惑星のうち、半径が地球の2倍以下の惑星の、地球からの距離(横軸)と主星から受ける日射量(縦軸)の分布。丸、星、三角の印はそれぞれケプラー宇宙望遠鏡、TESS、および地上の望遠鏡で発見された惑星が示されている。プロットの色は主星の近赤外線での明るさ(J等級)が示されており、黄色に近いほど明るい。大きい星印がTOI-2285bで、プロットされている惑星の中では4番目に主星が明るい (C)東京大学 (出所:プレスリリースPDF)

地上の望遠鏡を用いたそうした検証観測は世界中で行われており、東大とABCの研究者を中心としたチームも、国内外3つの望遠鏡に設置された、可視光域の3もしくは4つの波長帯で同時にトランジット観測を行える多色撮像装置「MuSCAT(マスカット)」シリーズ、およびすばる望遠鏡に搭載された赤外ドップラー観測装置「IRD」などを用いて、TESSの探索で発見される惑星候補天体の検証観測を実施中だという。

そうした中で研究チームは今回、検証観測を行った惑星候補の中から太陽系の比較的近傍(138光年先)の恒星を公転する惑星「TOI-2285b」を発見。TOI-2285bは半径が地球の約1.7倍と比較的小さく、低温度(約3200℃)の赤色矮星を周期約27日で公転している。

TESSで発見された惑星候補天体が本物の惑星かどうかを検証するためには、複数の波長でトランジット観測を行うことが重要だが、TOI-2285bのトランジットは27日に1回しか起こらないため、地上から好条件(夜間かつ快晴)で観測できる機会は限られてしまうという課題があった。研究チームはMuSCATシリーズを国内外3台の望遠鏡に配置していたこともあり、観測頻度を高めることに成功。TOI-2285bが惑星であることを確認することに成功したほか、すばる望遠鏡のIRDを用いることで、惑星の質量の上限値(地球質量の19倍)を得ることにも成功したとする。

  • 系外惑星

    TOI-2285bの発見に貢献した観測装置たち。左からスペイン・テネリフェ島のテイデ観測所の1.52m望遠鏡に搭載されたMuSCAT2、ハワイ・マウイ島のハレアカラ観測所の2m望遠鏡に搭載されたMuSCAT3、すばる望遠鏡のIRD。画像はないが、国立天文台 岡山天体物理観測所の188cm望遠鏡に装備されているのがMuSCAT1となる (C)東京大学(MuSCAT2/3)/アストロバイオロジーセンター(IRD) (出所:東大Webサイト)

TOI-2285bと主星の距離は、地球と太陽の距離の1/7ほどの2150万km弱しかないが、主星が低温度のため、惑星が主星から受ける日射量は、地球が太陽から受ける日射量の約1.5倍ほどと見積もられている。この日射量は、これまでに発見されたほかの多くの系外惑星と比べると穏やかだというが、それでももし惑星が地球と同じように薄い大気しか持たない岩石惑星であった場合、惑星表面の水がすぐに干上がってしまう程度には強力だという。

ただし、もし惑星の中心核の外側にH2Oの層が存在していて、かつその外側を水素を主体とする大気が覆っていた場合、H2O層の一部が液体として安定的に存在する可能性があるとする。そのような内部組成を仮定した上で、TOI-2285bの内部の温度と圧力のシミュレーションが実施されたところ、惑星の表層に液体の水(海)が存在する可能性があることが導き出されたという。

今後、実際にTOI-2285bの表層に液体の水が存在するかどうかを調べるためには、まずは惑星の質量を正確に測定し、すでに判明している惑星の半径や日射量の情報と合わせて惑星の内部組成を制約することが重要となるという。

惑星の質量を測定するためには、主星が十分に明るい必要がある。本来、赤色矮星は表面温度が低いために赤く暗いが、138光年の距離なら赤外線で明るく見えることから、IRDのような大型望遠鏡に取り付けられた赤外ドップラー観測装置を用いることで、実際に質量の測定が可能だとする。

今回の研究では、惑星の質量についてはまだ上限値しか得られていないが、今後のさらなる観測によって惑星の正確な質量が測定されれば、惑星の内部組成により迫ることができると期待されるとするほか、打ち上げが間もなく行われる予定のNASAのジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡などの次世代望遠鏡により、惑星の大気組成を調べることで、大気中に水などの分子が存在するかどうかを明らかにできる可能性もあるとする。

研究チームでは、TOI-2285bの発見は、将来の系外惑星における「生命の痕跡探し」への重要な一歩ともいえるとしており、今後、次世代の大型宇宙望遠鏡や地上の巨大望遠鏡により、温暖な系外惑星の大気中に水や酸素などの生命の痕跡となる分子を探る研究が可能になることが期待されるとしている。また、TESSは少なくとも2022年まで探索を継続する予定のため、今回と同様に地上望遠鏡との連携を行うことで、TOI-2285bと同等、もしくはより有望な惑星の数を今後さらに増やすことができると期待されるともしている。

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    水素大気と海を持つ系外惑星を想像して描かれたTOI-2285bのイラスト (C)ササオカミホ/SASAMI-GEO-SCIENCE,inc. (出所:プレスリリースPDF)