ルネサス エレクトロニクスは、低電力・近距離無線通信Bluetooth Low Energy(BLE)に対応した2.4GHzの小面積、低消費電力RFトランシーバ技術を開発したことを発表した。

同成果の詳細は、2月20日から24日にかけて開催された半導体の国際学会「国際固体素子回路会議(ISSCC 2022:International Solid-State Circuits Conference 2022)」にて発表された。

同社はISSCC 2015にてインピーダンス整合回路内蔵技術を発表しており、送受切り替えスイッチやインピーダンス整合のためのインダクタやキャパシタを外付けすることなく、小型、低コストを実現するBLE製品を提供してきた。しかし、使用するアンテナや基板の設計によっては必ずしもインピーダンスが50Ωとはならず、外付けの整合回路が必要になるという課題があったほか、従来技術のまま、インピーダンス可変機能を持つ整合回路を搭載すると、信号ロスの増加や、充分な可変範囲が得られないという問題が生じていたことを受け、今回、新たに2個のインダクタと4個の可変キャパシタで構成される可変インピーダンス整合回路技術を開発。整合回路に使われる送信側のインダクタと受信側インダクタを同心円状に形成し、その相互誘導を活用することにより、信号ロスの低減と、実効的な寄生容量の削減によるインピーダンス可変範囲の拡大を両立させるとともに、面積も削減することに成功したという。具体的には、インピーダンスの不整合を表す電圧定在波比(voltage standing wave ratio:VSWR)は最大で6.8まで対応し、約25~300Ωまでインピーダンスが可変であることを確認したという。

また、RFトランシーバの内部では、アンテナから入ってきた無線電波信号とほぼ同一周波数の基準信号(局部発振信号)を生成し、これを用いてGHz帯の無線信号を低周波ベースバンド信号に変換しているが、この基準信号は、素子のばらつきや温度、電圧の変動により精度が劣化し、受信特性の劣化をもたらすことから、従来はその対処手法として、キャリブレーション回路を用いて、位相のずれや振幅のずれを補正する方法が用いられてきた。しかし、キャリブレーション回路を内蔵する必要があることから、チップ面積や消費電力が大きくなる、テストコストが増加する、という問題があったという。

そこで今回、4つの異なる位相を持った基準信号を互いに補正し合うことで位相誤差をキャンセルする新しい自己位相補正回路技術を開発。同回路は小規模な回路で実現できるため、従来のキャリブレーション回路に比べ約12分の1のサイズで実現することができるほか、受信特性で重要なイメージ信号除去比も平均で39dBが得られ、Bluetooth規格に対して十分なマージンを取れることを確認したとしている。

なお、実際に試作されたBLE用RFトランシーバ回路は、22nm CMOSプロセスを採用し、受信部アーキテクチャ変更によるインダクタ数の削減や、小面積、低電流ベースバンドアンプ、高効率D級アンプなどの技術も加え、電源系を含む回路面積で0.84mm2を実現したほか、消費電力も、受信/送信時で3.6mW/4.1mWを実現したという。同社では、BLEのみならずRFトランシーバ全般に適用可能な技術であることから、実用化に向けた開発を継続して行って行くとしている。

  • Bluetooth LE用RFトランシーバ回路の試作チップ写真

    ルネサスが開発したBLE用RFトランシーバ回路の試作チップの写真