イーロン・マスク氏の宇宙企業、スペースXが開発中の巨大宇宙船「スターシップ」。火星移民を目指す、現代のノアの船である。

これまで高度約10kmまで飛行して着陸する試験が行われたのみだが、打ち上げに使うブースターの「スーパー・ヘヴィ」や、発射と着陸に使う施設などの開発も進み、宇宙へ飛び立つ日が着々と近づいている。

2022年2月11日、マスク氏はその開発の最新状況について明らかにした。はたしてスターシップはいつ打ち上げられるのか。そして人類は、いつ火星の大地を踏みしめることになるのだろうか。

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    スターシップの想像図 (C) SpaceX

スターシップとは?

スターシップ(Starship)はスペースXが開発中の宇宙船で、マスク氏が構想する、人類の火星への移住を叶える鍵に位置づけられている。

マスク氏はかねてより、人類は地球に住み続ける限り、伝染病や小惑星の衝突などによって滅亡する危険があると指摘。だが、もしほかの惑星、天体にも人類が住めるようになれば、たとえ地球が滅びても、人類という種は生き続けることができると主張する。スターシップはそのための、いわば現代のノアの箱舟なのである。

この壮大な目標を実現するため、スターシップは全長50m、直径9mと、宇宙船としては桁外れな巨体を誇る。この宇宙船を、全長69m、直径9mのさらに巨大な「スーパー・ヘヴィ(Super Heavy)」ロケットを使って打ち上げる。

組み合わせた状態の全長は119m、質量は約5000tにもなり、史上最大のロケットになる。これにより約100人の乗客、もしくは約100~150tの物資を地球周回軌道へ打ち上げることができ、打ち上げ能力の点でも史上最大となる。

また、人や物資を載せたスターシップを先に打ち上げ、あとから推進剤だけを積んだタンカー仕様のスターシップを打ち上げてドッキングさせ、推進剤の補給を受けることで、約100~150tの物資を載せたまま、月や火星へ飛んでいくこともできる。

マスク氏は、40~100年かけてスターシップを続々と打ち上げ、火星に約100万tの物資を送り込み、人口100万人以上の自立した文明を築くとしている。

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    火星に着陸するスターシップの想像図 (C) SpaceX

スターシップ/スーパー・ヘヴィはまた、飛行機のように機体全体を、何回でも再使用できるという特徴ももつ。これにより打ち上げ費用の低減と、打ち上げ頻度の向上を図る。

また、ロケットエンジンを動かす推進剤には、液化メタンと液体酸素を使用。高性能が期待でき、再使用にも向いているばかりか、火星で生成できるため“現地調達”できるという利点もある。

スペースXは当初、同社の施設があるカリフォルニアやフロリダでスターシップの開発を行っていたが、その後、テキサス州ブラウンズビル近郊ノボカ・チカに「スターベース(Starbase)」と名付けた広大な施設を新設。研究や開発、試験の拠点としているほか、打ち上げ場所としても使うことを見込んでいる。

スターシップはこれまでに、タンクやロケットエンジン単体での試験に始まり、「SN(Serial Number)」と名付けられた試作機の開発、試験を実施。高度約10kmまで飛行したのち垂直に着陸する飛行試験を重ねた。着陸に失敗したり、空中で爆発したりといった憂き目にも遭ったが、改良を重ね、2021年5月6日についに完全な成功を収めた。

スーパー・ヘヴィも、製造技術の確認などを目的とした試作機を経て、スターシップの試作機を搭載して地球周回軌道へ試験飛行するための試作機が造られている。

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    テキサス州にあるスターシップの開発拠点スターベース (C) SpaceX

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    昨年5月に行われた、スターシップの試作機SN15の飛行の様子 (C) SpaceX

宇宙への初打ち上げは“年内にも”

スターシップをめぐって、最も注目が高いのは「いつ地球周回軌道への試験飛行が行われるのか」ということだろう。

2021年9月、初めてスターシップとスーパー・ヘヴィを結合した状態で発射台に設置した際、マスク氏は「数週間以内にも打ち上げたい」という見通しを語っていた。その後、「年内」、「2022年1月」と延びたが、2月になったいまでもまだ飛び上がっていない。

マスク氏によると、打ち上げが遅れている理由は主に「規制」と「エンジンの技術的な課題」だという。

規制というのは、スターシップの開発、打ち上げ拠点のスターベースがある、テキサス州南部の環境アセスメントが関係している。環境アセスは米国連邦航空局(FAA)などが行っており、主に打ち上げが生態系に与える影響が調査されている。

マスク氏によると、「実際のところ、(スターシップの打ち上げは)環境に大きな影響はないでしょう」としたうえで、「もっとも、だからといって、規制の観点から、調査が早く終わるということはありません。なにより、私たちは訴訟社会に生きています」と語った。

技術的な課題は、主にスターシップとスーパー・ヘヴィに使うロケットエンジン「ラプターV2」にあり、燃焼室が熱で溶けるという問題が発生しているという。

マスク氏は、今回の会見で、初飛行の時期について明言しなかった。FAAによる打ち上げ許可は「早ければ来月には出るかもしれません」する一方で、「基本的には2~3か月かかるでしょう」とも述べている。またエンジンの問題についても解決までに「2~3か月」という見通しを示した。

一方、環境アセスの調査がこじれるなどし、スターベースからの打ち上げが大幅に遅れる場合に備え、フロリダ州と洋上プラットフォームからの打ち上げに向けた準備も進めているという。

スペースXはすでに、フロリダ州のNASAケネディ宇宙センターにある第39A発射施設を借り受けている。現在は同社の主力ロケット「ファルコン9」や「ファルコン・ヘヴィ」の打ち上げを行っているが、将来的にはスターシップの打ち上げ、着陸にも使う予定をしており、そのための施設の建設も始まっている。フロリダ州に関しては環境アセスメントの承認もすでに終わっている。

また、石油掘削用のプラットフォームを購入し、洋上の発射台となる「フォボス」と「デイモス」を建造中であることも知られている。

ただ、どちらも打ち上げができるようになるまでには時間がかかるとし、「6~8か月後、早くとも今年中」との見通しを語った。

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    スターベースの発射施設に設置されたスターシップ/スーパー・ヘヴィの試作機 (C) SpaceX