岡山大学と科学技術振興機構は2月17日、細胞をアルカリ化する光感受性タンパク質を用いることで、がん細胞など、光で狙った細胞を選択的に死滅させる技術の開発に成功したと発表した。
同成果は、岡山大 学術研究院 医歯薬学域(薬)の須藤雄気教授、同・小島慧一助教、同薬学部の中尾新大学院生らの研究チームによるもの。詳細は、米化学会が刊行する旗艦学術誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載された。
ヒトの細胞は、異常を来した場合に自死(アポトーシス)する機能が備わっており、それによって取り除かれることで、健康が保たれるようになっているが、その機能が破綻してしまうと、異常細胞が取り除かれることなく増殖を続け、やがては「がん」となってしまう。そのため、もし異常細胞を人為的に死滅させる技術を開発することができれば、がんの治療もしくは予防に役立つと考えられ、さまざまな研究が進められてきた。
そうした細胞を死滅させる方法としては、主に薬剤が用いられてきたが、多くの薬剤は、正常な細胞にも作用してしまうため、副作用という課題を抱えており、がん細胞(もしくは異常を来した細胞)だけを選択的に死滅させることができる技術の開発が求められていた。
そうした中、研究チームが今回着目したのが、細胞膜に存在する、光によって働くタンパク質「レチナール」の一種である「アーキロドプシン-3」(AR3)だという。AR3は、細胞の内側から外側へと水素イオンを運ぶ性質を持つことから、細胞内の水素イオン濃度を低下、すなわちアルカリ化させることが可能であり、細胞のアルカリ化は自死の引き金になると考えられていることから、研究チームは「光を使ってAR3を働かせて細胞をアルカリ化すれば、自死させることができるのではないか」と考察し、その実証に取り組むことにしたとする。
実際に、ヒトの培養細胞にAR3を合成した後、緑色の光が当てられたところ、AR3の働きによって細胞内がアルカリ化。3時間ほどで、ほとんどの細胞が自死することが確認された。また、多細胞動物の実験モデルとして有名な線虫を用いて、その感覚神経にAR3を合成させた後、緑色の光を当てたところ、化学物質への感覚神経の応答反応が低下し、感覚神経が死滅したと考えられる結果を得たという。
近年、レーザーやLEDといった光学技術の進展により、身体の中の狙った部位のみに光を当てることも可能となってきていることから研究チームでは、遺伝子工学技術を用いてAR3をがん細胞へと導入し、今回開発された「光で細胞を死滅させる技術」を利用することで、目的のがん細胞だけを選択的に死滅させることが可能となり、副作用のない画期的ながん治療法につながることが期待できるとしている。