既報の通り、2月8日にソフトバンクグループはNVIDIAへのArm売却を断念同グループはArmを2022年度中(2023年3月まで)にIPOする計画を示している。またこれに伴い、従来ArmのCEOだったSimon Segars氏はCEOおよび取締役会から退任。同日、後継としてIPG(IP Products Group)のPresidentだったRene Haas氏がCEOに就任した。

そのRene Haas氏と、2019年から引き続きCFOの職に就いているInder M. Singh氏により、Q&Aセッションがオンラインの形で開催された(Photo01)ので、内容を簡単に拾ってご紹介したいと思う。

ちなみにセッション開始前に「IPOの時期とか市場などについては一切答えられない。現在はIPOプロセスの初期段階で、検討中のオプションは大量にあるが、現時点で決定している事は何もない」とPRチームから釘を刺されているため、IPO関連の話題はあまりない。

もっともその新CEOの最初の挨拶も「新しい職務の初日を迎えることが出来てとても嬉しく、また恐縮にも感じている。私はArmに9年在籍し、過去4年半はArmのBusinessをリードしてきたからだ。なのでこうした機会を与えられたことに大変光栄に思っている」だけで、すぐに質疑応答に入った。逆に言えば、まだ今後の戦略云々を語る段階ではない、という事でもある。

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    Photo01:左が新CEOのRene Haas氏、右がCFOのInder M. Singh氏。Haas氏はサンノゼから、Singh氏はニュージャージーからの参加だそうである

Arm新CEOのRene Haas氏によるQ&A

Q:Armは資金やリソース難の中、今後新しいマーケットにどうやって進出してゆくのか?

Haas氏:4年前に我々は新しい戦略、つまり水平戦略から垂直戦略に軸足を移し、市場導入型と呼ぶべきアプローチを取ることで、データセンターやクラウド、自動車などの分野で市場シェアを拡大し、成功を収めてきた。

その一方でビデオやディスプレイなど収益性の低い分野の事業を切り捨て、自社が得意とするコンピュート(CPU)やGPU、機械学習向けのNPUなどに重点を置いてきていた。まだ今後どういう分野に参入して行けるかは明確では無いが、ポストパンデミックで進行しているデジタル化は半導体業界にとって素晴らしい機会であり、チャンスと考えている。

Q:昨年、Segars氏はIPOに否定的な発言をしていたが、本日のIPOの発言はArmの社員にどう受け止められているのか?

Singh氏:Armは基本的に自己資金で長期投資を行うタイプの企業で、それはソフトバンク傘下の5年間もそうだった。相違点は、傘下にあるときは利益率を下げるのが簡単な事だが、その後再び投資に対するリターンが求められるようになり、現在は以前と同程度の利益率に戻り、今後はさらに高い利益率を設定するかもしれない。今後5~7年間は、株式公開企業として資本を調達し、より自由度の高いビジネスを展開できると考えている。

NVIDIAによる買収は、我々がNVIDIAとなり、NVIDIAのバランスシートを利用して資金調達を出来るというものだった。ただこの5年間、本来ならもっと長期にわたって行うべき投資を前倒しの形で実施できた。現在我々は現金収入と資金があり、粗利益率も95%を超えている。なので今後は会社の成長を推進する上でかなり有利な立場にあると考えている。

Q:子会社のKigenとPelionはどうなるのか?

Haas氏:KigenとかPelionなどのISG(IoT Services Group)に属するビジネスは、今回のIPOの際にはソフトバンク側に残される。IPOの対象はClassic Armと呼ばれる、要するにソフトバンク買収前のArmの事業ということになる。

Q:M&Aの可能性は?

Singh氏:もし今後数年の間に、市場の要求と我々が提供できるものの間にギャップが見いだされた場合にはM&Aを行う選択肢は存在するが、現時点ではそうしたニーズは無い。

Q:NVIDIAに20年間提供するライセンスは、一般的なライセンスなのか?

Haas氏:詳しくは把握していないが、一般に我々がパートナーと締結するライセンス契約は機密事項で、その内容はお話しできない。

Q:中国におけるArmの問題(Arm ChinaとArmが対立している件)はIPOに影響しないのか?

Haas氏:Arm Chinaの問題はともかくとして、中国においてもArmは広く普及しており、またArm Chinaも良い業績を上げている。

Singh氏:IPOをするしないに関わらず、Arm Chinaの問題は当然関心事であり、IPOを行う場合には(Arm Chinaの)収益の可視化や売掛債権の確認が重要となるだろう。我々(とArm China)は相互依存の関係である。ただまだIPOの発表から半日しか経っていないので、現時点ではこれ以上の説明は出来ない。

Q:ここ数年Armはエンジニアを多数雇用しているが、もう適正サイズのエンジニアが集まったと考えているのか?

Haas氏:まだ十分とは思っていない。我々の技術や製品に対するデマンドは非常に高いからだ。

Singh氏:我々は(Armを)エンジニアリングの会社だと考えており、私自身もエンジニアであるが、エンジニアは幾ら居ても足りないものだ。イノベーションを起こし続けてゆくために、我々は常にエンジニアを必要としている。もちろん、例えばISGのビジネスを始めた時に、実際には投資が重複していたりした。なのでIPOに向けて、コスト管理はもっと慎重に行ってゆくつもりである。

Q:RISC-Vとの競合をどう考えているのか?

Haas氏:私は半導体業界の本質は競争(Competition)だと考えており、そしてRISC-Vは手ごわい競合相手である。RISC-VはこれまでArmが競合してきた相手と異なる。Open sourceベースのもので、それ故に現在非常に活発になっている。

ただコンピュータアーキテクチャを本当に普及させ、意味あるものにするのはソフトウェアエコシステムである。それと、我々はセキュリティ面でRISC-Vより一日の長があると考えている。理由の1つは単純に規模である。我々は1000万以上、恐らく1500万人の開発者を抱えており、Armベースのアプリケーションや主要なOSを数えきれないほどサポートしている。Armの実装は、(アーキテクチャライセンスを得て)独自に実装を行うパートナーの製品を含めてすべて標準化されている。

これはトレードオフの関係にある。RISC-Vはイノベーションを起こし、新しい拡張機能を実装できるが、その一方でソフトウェア互換性とか、より重要なポイントとして依存性の保証を失う事があり得る。この点は私や私の前任者が重要な方針として堅持してきた事であり、これが将来にわたって役に立つと確信している。

Q:IntelがFoundry ServiceでRISC-Vを含むエコシステムに10億ドル投資すると発表したが?

Haas氏:Intelは我々の素晴らしいパートナーであり、現在Intelでは多くのArmベースの製品が設計・製造されている。今後もIntelとは緊密な関係を築いてゆくつもりだ。

Q:既存のライセンシーからの反応を教えてほしい

Haas氏:発表から10時間くらい経った頃から、私の携帯電話が今までにないくらいに鳴っている。まだ具体的な反応をお伝えするにはちょっと早すぎるが、最初の反応はポジティブなモノばかりであり、個人的なレベルでも沢山の祝福を頂いた。

Singh氏:まだほんの12時間なので何かを語るには早すぎるとは思う。ただ2021年度は、結果的に過去最高のライセンス契約数を達成しており、つまり需要は引き続き多いと考えている。そしてパートナーも、今後5~10年に渡って私たちがサービスを提供し続ける事に安心感を抱いたと思う。

今後の動向に注目

というあたりである。外部からのCEO招聘ではなく、内部のビジネスを牽引してきたキーパーソンのCEO昇格という形なので、ビジネス面での混乱とか長期の学習時間などは必要ないとはいえ、戦略をほぼ180度転換する形になる訳で、新戦略の立案には相応の時間が掛かる事は間違いない。通例だと毎年のCOMPUTEXあたりで新製品とか新ビジネスの発表が行われる訳だが、今年の6月位までに新戦略が立案完了しているかどうか、ちょっと見ものである。