東京工業大学(東工大)は2月2日、温和な条件で芳香族炭化水素のC-H結合を酸化できる触媒として、ありふれた元素であるマグネシウム(Mg)とマンガン(Mn)からなるムルドカイト型複合酸化物「Mg6MnO8」のナノ粒子を開発することに成功したと発表した。
同成果は、東工大 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の鎌田慶吾准教授、同・原亨和教授らの研究チームによるもの。詳細は、米化学学会が刊行する材料と界面プロセスを扱う学術誌「ACS Applied Materials & Interfaces」に掲載された。
地球環境を保全しつつ、経済活動を進めるための技術が世界各地で開発されているが、触媒技術もその1つで、中でもプラスチックなどを生産する化成品産業において、触媒反応の全プロセス中の約3割を占めるという「選択酸化反応」が注目されているという。その理由は、改善の余地を多く残しているとされており、中でも不活性C-H結合をアルコールやカルボニル化合物へと酸化する反応は、産業上重要な工程ながら、複数の工程を経る必要があるため消費エネルギーが大きく、その低減が求められているという。
その理想的な実現手法は酸素分子のみを用いた直接酸化反応だが、反応条件が厳しいことが課題で、特殊な試薬や触媒を用いる必要があり、環境や人体に有害な廃棄物の副生も少なくないのが現状であり、不活性C-H結合の直接酸化を、低環境負荷かつ温和な条件で実現する手法の開発が求められるようになっている。
研究チームはこれまで、「硫黄化合物を低温・高効率で酸化するペロブスカイト触媒」や「バイオマス資源からポリマー原料を効率的に合成できるβ-二酸化マンガン(β-MnO2)触媒」を開発してきたが、今回の研究では、そうした研究成果やノウハウをもとに、β-MnO2にも存在する酸化力の強い高原子価の4価のマンガン陽イオン(Mn4+種)が、塩基性マトリックスである酸化マグネシウム(MgO)構造中に存在するムルドカイト型酸化物に着目。その簡便かつ効率的なナノ粒子の合成に着手することにしたという。
具体的には、独自開発の「リンゴ酸」を用いたゾルゲル法を用いることで、MgOの構造中にMn4+を含むムルドカイト型複合酸化物Mg6MnO8のナノ粒子を合成することに成功。不活性C-H結合を持つ基質としてフルオレンをはじめとする芳香族化合物を用いて、Mg6MnO8による直接酸化反応を試みたところ、40℃という温和な条件下で、最大95%の収率を得ることに成功したという。
このMg6MnO8ナノ粒子は反応後も触媒性能を損なうことなく再利用可能であることも確認されたほか、種々の芳香族炭化水素(16種類)のC-H結合酸化反応に適用できる固体触媒として機能することも確認したという。
今回開発された触媒が高い性能を持つ要因は、主に「高い比表面積」と「MgOとMn4+が混在した化学構造」にあるとしており、MgOの構造とMn4+を同時に含むMg6MnO8の特異的な結晶構造が重要であると考えられるとする。
なお、今回開発された多孔性Mg6MnO8ナノ粒子触媒は、芳香族炭化水素の液相酸化反応以外にも、自動車の排ガス浄化やメタンの酸化カップリングなどの気相反応での応用研究がなされており、幅広い化学反応へ適用できる可能性が高いと研究チームでは説明するほか、Mgイオン電池の電極・CO2回収、酸素センサなどの材料研究も進められており、触媒以外の応用用途展開も期待されるとしている。特に、メタンをはじめとする低級アルカンガスを直接酸化反応によってアルコールやカルボン酸に変換する技術は、化石燃料の改質工程を削減することにつながることが期待されるという。
研究チームでは今後も、金属元素の複合効果の本質を追究することで、酸塩基・酸化還元のすべての反応要素を持つ優れた触媒材料である金属酸化物の可能性をさらに広げていきたいとしている。