新構造材料技術研究組合(Innovative Structural Materials Association=ISMA、東京都千代田区)は1月31日、「革新的新構造材料等研究開発2021年度成果報告会」をオンラインで開催した。
報告会では、超軽量自動車車体などを実現するための“マルチマテリアルボディ”向け自動車車体を実現するための革新鋼材や革新アルミニウム合金の開発成果や自動車を軽量化するための鉄鋼、アルミニウム、マグネシウム、軽量CFRP(炭素繊維強化プラスチック)などの各素材やその成形法、接合法、その検査法などについて各開発成果を発表した。
また、各素材のリサイクルに向けたLCA(ライフ・サイクル・アナリシス)評価などの報告もあり、環境や社会・経済効果の影響評価などもそれぞれ報告された。
その多彩な成果報告の中で、革新的な研究開発成果として注目を集めたのは、アルミニウムスクラップを再生・精錬する技術である“ハイアップグレード技術”だ
この研究開発成果を報告したのは、大手アルミニウム素材メーカーUACJと大阪大学大学院工学研究科。これに北海道大学や京都大学、岩手大学がそれぞれ支援する共同研究開発態勢で実施したものである。
現在は、自動車メーカーやその部品メーカーは、自動車車体やエンジンなどの主要部材・部品などに用いているアルミニウム合金の展伸材(圧延材)スクラップを、アルミニウム合金製エンジンブロックとその部品の“鋳造材”にリサイクルしている。
アルミニウム合金の展伸材はAl-Mg(アルミニウム・マグネシウム)系の5000番系合金やAl-Mg-Si(アルミニウム・マグネシウム・ケイ素)系の6000番系合金が使われている。
これに対して、アルミニウム鋳物はADC12やAC4Cと呼ばれているCu・Si(銅・ケイ素)が添加された合金系やSi・Mg(ケイ素・マグネシウム)合金系が使われている。
このアルミニウム鋳物系は不純物濃度の許容範囲が広いという規格の合金系になっている。特に、アルミニウム鋳物系はFe(鉄)とSi(ケイ素)の不純物量が多いために、アルミニウム鋳物スクラップからアルミニウム合金の展伸材をつくるためには、こうした不純物元素を大幅に減らす再生技術が必要になっていた。
この結果、事実上はアルミニウム鋳物スクラップからアルミニウム合金の展伸材を工業的につくることはかなり難しいと考えられてきた。このため、アルミニウム展伸材スクラップからアルミニウム合金の鋳造部品がつくられてきた。
UACJと大阪大はアルミニウム鋳物スクラップからアルミニウム合金の展伸材をつくるハイアップグレード技術としてイオン液体法を利用するハイアップグレード高速電解精錬技術の模式図を示し、「アルミニウム鋳物スクラップからアルミニウム地金(アルミニウムが99.7%程度)に戻す再生法・精錬法の開発にめどが立った」とした。
そしてハイアップグレード技術という革新的なカギは「ハイアップグレード電解液にある」と解説。「そのカギとなるハイアップグレード電解液組成での電解効率や、でき上るアルミニウム合金の展伸材の表面平滑性などを解明しつつある」とする。
これらのことから現実に利用可能なアルミニウム合金の展伸材になる見通しが立った模様だ。
電力料金が諸外国と比較して高い日本では、アルミナ(アルミニウム酸化物Al2O3)を電気分解してアルミニウム地金をつくる精錬法の事業は価格的に成り立たず、電気料金が安い外国でつくったアルミニウム地金を輸入して利用している。
「この現状に対し、今回開発が進むハイアップグレード高速電解精錬技術は新しい道を開きつつある」という。
特に、このハイアップグレード高速電解精錬技術が省エネルギーでCO2排出量が少ない手法にまで進めば、新しいアルミニウム精錬の道を切り開く可能性が見えてくるといえるだろう。
もちろん、コスト面でこのアルミ精錬事業が成立するかどうかの課題はクリアする必要がある。
ISMAは、2013年10月に経済産業省の未来開拓研究プロジェクトとして始めた同プロジェクトの推進母体として発足し、その途中で新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の研究開発プロジェクトに切り替わって、その研究開発を推進してきた。2023年度に同プロジェクトは終了する予定だ。