東京大学と科学技術振興機構の両者は1月5日、塩化ナトリウム(NaCl=塩)の結晶の角に、電気素量eの1/8の大きさの電荷が生じることを理論的に解明したと発表した。
同成果は、東大大学院 工学系研究科 物理工学専攻の渡邉悠樹准教授、米・マサチューセッツ工科大学(MIT)のホイ・チュン・ポー博士研究員(現・香港科技大学助教)の国際共同研究チームによるもの。詳細は、米物理学会が刊行する純粋および応用物理学を扱う学際的な完全オープンアクセスジャーナル「Physical Review X」に掲載された。
近年注目を集めるようになってきた「トポロジカル絶縁体」にはさまざまなものがあるが、その代表的な性質として「物質内部が絶縁体であるにも関わらず、表面は金属的(伝導性がある)になる」ことが知られている。
このトポロジカル絶縁体の研究が進むにつれて、表面も含めて絶縁的であるような絶縁体の中にも、その結晶の角に電気素量eの分数の大きさの電荷を持つものが存在する可能性があることが近年の研究から明らかになってきた。
電気素量eは、電子や陽子の持つ電荷の大きさを表す基礎物理定数であり、通常の物質の電荷は電気素量eの整数倍の値を取ることが知られている。電気素量eの何分の1というのは特殊な性質といえ、これらの絶縁体は、「結晶の構造を完全なものから(一定の条件の下で)徐々に歪めていっても、角の電荷の大きさが電気素量eの分数の値に量子化されていて変化しない」という意味から、トポロジカルな性質を持っているといえるという。しかしこれまで、こうした特性を持った絶縁体は、「メタマテリアル」と呼ばれる人工的な2次元構造物質に限られていた。
そうした中、東大の渡邉准教授らの研究チームが絶縁体の角に現れる電荷の大きさを一般的に表す公式を発表。今回の研究では、MITのポー博士研究員らと、その公式をさまざまな物質に当てはめてみることにしたという。
その結果、塩化ナトリウムのイオン結晶がe/8に量子化した電荷を結晶の角に持つ物質であることが明らかになったという。また、塩化ナトリウムの幾つかのモデルに基づいた解析計算や数値計算から、この予想が正しいことが示されたという。
さらに、この結晶の角に現れる分数電荷を、直接実験で観測することが可能かどうかを理論的に検討したところ、原子間力顕微鏡を用いて試験電荷と角電荷の間に働くクーロン力を測定することで、観測可能であることが判明したという。
今回の研究成果について研究チームでは、塩化ナトリウムに限らず、さまざまなイオン結晶が同様の角電荷を持つことを示唆するものだという。イオン結晶は身の回りにあふれており、さまざまな製品に用いられていることから、今回判明した、結晶の角に分数電荷を持つという性質は、これらの物質の応用に際してさまざまな場面で重要になる可能性があるとしている。