北海道大学(北大)、東北大学、茨城大学の3者は1月5日、ナトリウムとケイ素の巨大結晶「Na24Si136」からNaのみを均質に抜き出す新たな合成プロセスを開発したことを発表した。

同成果は、北大 電子科学研究所の藤岡正弥助教、同・岩崎秀博士、東北大 金属材料研究所の森戸春彦准教授、茨城大 理工学研究科の小峰啓史准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、機能性材料に関する化学と物理学を扱う学際的な学術誌「Advanced Materials」に掲載された。

24個のNa原子と136個のSi原子からなる巨大結晶Na24Si136は、籠状に結合したSiの内部にNaイオンが内包された化合物として知られている。これまでSiの籠状構造を直接合成する反応経路は実現していないことから、Si同素体を合成するためにはNa24Si136を一旦合成し、そこからNaを抜き出す必要がある。このようにして得られるSi同素体は、現在広く普及しているダイヤモンド構造のSi(d-Si)よりも大きな光吸収係数を示し、高い太陽光発電能力が期待されているほか、形成されるSiの籠(ケージ)はイオン電池の電極材料として注目を集めている。

このような応用開発を進めるためには、単結晶Na24Si136を巨大化する技術と、その巨大単結晶からNaを抜き出す技術の両方を確立することが必要とされている。

Naを抜き出す技術として従来は真空下での熱処理が用いられてきたが、同手法では単結晶が大きくなると内部にNaが残ってしまうことが明らかになっている。そこで研究チームは今回、異方的にNaイオンの拡散を誘発する環境を作り出し、巨大な単結晶から均質にNaイオンを抜き出すための新規プロセスを確立することを目指すことにしたという。

具体的には、Na24Si136をNaイオン伝導体(NASICON)に接触させて高電圧を印加することで、NASICON内部でNaに偏りが生じNa24Si136との接触界面でNa欠乏層を形成。それを450℃ほどで加熱することで、Siのケージを壊さずにNaのみがケージ間を移動することを可能とし、自発的にNaがSiのケージから排出され欠乏層へと拡散する仕組みを構築。このNaの移動は、時間の経過とともに次々と進行するため、Na24Si136の単結晶サイズに関わらずNaを均質に抜き出すことができるという。

  • 準安定物質

    (上段)左は、Na24Si136をNASICONに接触させたもの。中央は、Na24Si136からNaがNASICONのNa欠乏層に移動しているイメージ。右はSiカゴ状構造のイメージ。(下段)(a)Siの籠状構造にNaが内包されたNa24Si136の結晶構造。(b)Siの籠状構造からNaが取り除かれたSi136の結晶構造。(c)一般的に知られているSiの結晶構造ダイヤモンド構造 (出所:プレスリリースPDF)

この手法を用いた結果、清浄な表面を保持しつつ、均質にNaが抜けていることが確認されたとする一方、真空熱処理を用いた場合はクラックが形成され、表面にNa2CO3が主成分となる白色の不純物が付着してしまうことが判明したとする。また、単結晶内部にNaが残っていることも確認されたという。この残留したNaは、真空熱処理の時間を延長してもほとんど変化しなかったとしている。

  • 準安定物質

    (a)Na24Si136からNaを除去するためのメカニズム。(b)(a)の処理によって得られた試料の外観と断面像およびNaの濃度分布。(c)真空熱処理によって得られた試料の外観と断面像およびNaの濃度分布。(d)単結晶を厚み方向に削り出した際に見られるNa濃度分布の変化。試料全体に渡って均質にNaが抜けていることが確認された (出所:プレスリリースPDF)

今回の手法は、欠乏層を介して放出されたNaが次々にNASICONの下層に移動するため、表面でこうした不純物を形成しないことが特徴。厚さ方向に単結晶を削り出し、Naの濃度分布の調査を行ったところ、全領域に渡ってNaが均質に抜けていることが確認されたという。

近年、ミリオーダーのNa24Si136単結晶の合成が報告されるようになってきており、これを種結晶とすることで、さらに巨大な単結晶が実現できることが期待されると研究チームでは説明するほか、今回開発されたプロセスはNa24Si136に限らず、しかるべき条件を満たす種々の化合物で実現することが期待されるという。

なお研究チームでは現在、今回提案された新たな機構の広範な物質への適用に向けた研究を進めているとしており、今回の知見は、イオンの拡散が制御可能な母物質の予測につながり、新たな準安定物質の発見の加速につながるものと期待されるとしている。