北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)は12月27日、熱により励起された磁気の流れである「熱マグノン流」を、ダイヤモンド中の「窒素-空孔複合体中心」(NV中心)による極小な量子センサを用いて計測することに成功したと発表した。
同成果は、JAIST 先端科学技術研究科 応用物理学領域のドゥイ・プラナント大学院生(研究当時)、同・安東秀准教授を中心に、京都大学、物質・材料研究機構の研究者も参加した共同研究チームによるもの。詳細は、米物理学会が刊行する工学と物理学をつなぐ学際的な分野を扱った学術誌「Physical Review Applied」に掲載された。
近年、計測分野において従来の性能を凌駕する技術として期待されているのが、量子力学を原理とした量子センシング技術であり、その中でも、ナノサイズの量子センサとしてダイヤモンド中の欠陥構造であるNV中心が注目されている。
また、デバイス分野で近年、プロセスの微細化に伴う発熱が課題となっており、その解決技術として、電流を用いずに電子スピンを用いるスピントロニクス分野、中でもスピンと熱の相互作用を積極的に利用するスピンカロリトロニクスが注目されているという。
これまで、量子センシングとスピンカロリトロニクスは別々に発展してきたが、研究チームは今回、これらを融合した分野の発展につながる新手法を実証することに成功。今回の研究では、熱により励起された磁気の流れである熱マグノン流をNV中心に存在する量子スピン状態により計測が可能であることが実証された。
具体的には、磁性ガーネット試料「Y3Fe5O12(YIG)」中に温度勾配を印加して熱の流れを生み出し、これにより熱励起された熱マグノン流を生成。試料端でマイクロ波によりコヒーレントな(エネルギーと位相のそろった)スピン波を生成し、試料中に伝搬させ、その状況で試料中央にダイヤモンドNV中心を含有したダイヤモンド片をYIGに近接する形でスピン波の計測が行われた。スピン波の強度は、光学的磁気共鳴検出法を用いたNV中心のラビ振動により計測され、熱マグノン流による変調信号を観測することに成功したという。
今回の研究成果は、量子センシングとスピンカロリトロニクスを融合する新手法となることを示唆するものであり、特に、NV中心はナノスケールの分解能で量子計測が可能であることから、将来的には熱マグノン流に関する現象をナノスケールで計測すること、さらには熱マグノン流とNV中心の量子状態との相互作用に関する新しい研究を展開させられると研究チームでは説明している。