NTTは12月8日、「グラフェン量子ホール状態」におけるスピン波発生過程を明らかにし、スピン波の電気的制御に関する知見を得ることに成功したと発表した。
同成果は、NTT 先端技術総合研究所、仏・CEA-サクレー研究所、物質・材料研究機構の国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の物理学を扱った「Nature Physics」に掲載された。
近年、次世代半導体技術としてスピントロニクスの活用が模索されているが、実はその大半がスピンを持った電子の流れを利用しているため、結局のところ熱エネルギー損失の問題を解決できていないという。そうした背景の中、最近注目されるようになってきたのが、スピン波を粒子としての性質も持つ量子として扱い、制御することでデバイスへの応用を目指す技術である「マグノニクス」だという。マグノニクスの研究は、さまざまな物質で異なる機能が実現されているが、現在はまだメリット・デメリットが議論されている段階であり、実際のデバイス応用までにはまだ多くのブレークスルーが必要だという。
そうした中で、グラフェン量子ホール状態は、格子欠陥や不純物が少なく、スピンが完全に揃った絶縁体であるという点でクリーンかつシンプルな系であること、ならびにスピン状態を電気的に変化させることが可能なことなどから、スピン波の基本的な性質を研究するための理想的なプラットフォームとして注目されているという。 研究チームは今回、グラフェンと六方晶窒化ホウ素、金属電極を積層し、微細加工することでp-n接合および電気測定用電極を作製し、磁場を印加することで、電子波干渉計を実現。この干渉計を通して測定される電流は、長さ1μmの干渉計の幅が0.1nm変化すると、電流値は70%程度変化するというレベルの高い感度を有しており、この特性を用いて、スピン波の発生過程や電気的制御に関する知見を得ることを試みたとする。
スピン波の特性が調べられた結果、スピン波は1個ずつランダムに生成されていることが判明。これは、スピン波が単なる波ではなく粒子としての性質も持つ量子(マグノン)であることの証拠だという。
また、電子密度を調整することでスピンの状態を変化させたところ、スピン波のエネルギーが変化する様子を観測することにも成功。これにより、スピン波の電気的制御が可能であるということが示されたとしている。
今回の成果について研究チームでは、グラフェン量子ホール状態というクリーンかつシンプルな系でのスピン波研究が可能となったことから、スピン波の速度や減衰メカニズムなどスピン波の基本的性質の解明につながることが期待されるとしているほか、マグノンの生成を制御することで、マグノンによる量子情報の伝送などへの応用も期待されるとしている。