日本設計とAutodeskは11月10日、2021年10月に3度目の包括契約(EBA:Enterprise Business Agreement)の更新を行ったことを発表した。

EBAを締結することでAutodeskの製品やクラウドサービス、テクノロジーを自由に切り替えて利用可能な「Token Flex」と呼ばれるライセンスが提供される。

両社は2014年9月より次世代BIMの実現を目指してパートナーシップを結び、2015年にEBAを締結、2018年にも「新たな3年間に向けたもの」としてEBAを更新していた。

これまで両社は「BIMワークフローの確立」「建物の高品質化・高性能化に寄与するBIMの構築」「DX推進とビックデータの活用」の3つの観点で協力を行ってきたという。

BIMワークフローの確立

BIMワークフローの確立に関するこれまでの成果として、2018年に「建築 BIM 推進会議」が設置され、BIMにより設計や管理を行うにあたってのワークフローを取りまとめた「設計BIMワークフローガイドライン 建築設計三会 第1版」の公開が挙げられた。

日本設計は、建築 BIM 推進会議の各部会や各団体の活動に関わり、日本国内のBIMの標準化整備に全面的に協力してきたという。

日本設計の篠﨑淳 代表取締役社長は「日本国内のBIMの標準化という意味で、ガイドラインが取りまとめられたことは、大変大きな一歩だったのではないかと思う。ガイドライン作成だけでなく、メーカーのBIMのオブジェクト提供といったものもこれまでの我々の取り組みで促進できたと思っている。オブジェクトは設備や電気メーカーに提供が開始されている」と2018年から2021年までの3年間の成果を説明した。

  • 日本設計社長

    日本設計の篠﨑淳 代表取締役社長

また、今後の日本設計側の取り組みとして篠﨑社長は「BIMの全面的な稼働に向け、社内側の設計プロセスの落とし込みを進めている。建築BIM推進会議の各部会や建築設計三会の関係団体でのBIMの標準化はまだ課題が残っているので、積極的に協力していく」とした。

Autodesk側の今後の取り組みとして同社のアジアパシフィック アカウント営業本部 シニアディレクターのルー・グレスパン氏は「Autodeskにとって日本は重要な市場であり、日本においてのBIMのワークフロー進展について非常に嬉しく思う。Autodeskはグローバルの経験が豊富のため、その経験を用い引き続き日本設計をサポートしていく」とした。

  • Autodeskのアジアパシフィック アカウント営業本部 シニアディレクター ルー・グレスパン氏

建物の高品質化・高性能化に寄与するBIMの構築

建物の高品質化・高性能化に寄与するBIMの構築においての成果として篠﨑社長は「実施設計の成果図書をBIMで作成した案件が増加し、超高層や大型案件においても、基本設計を中心に活用が進んできている。また、BIMと省エネ適合判定を行うWEBプログラムとが連携可能な仕組みを構築し、2021年9月より運用を開始した」とその成果を説明した。

  • 両社の取り組み

    建物の高品質化・高性能化に寄与するBIMの構築分野での両社の取り組み(出典:日本設計)

また、世界でも遅れていた電気BIMについて、国内で利用可能な電気系BIMオブジェクトの整備や、国内電気メーカーからも照明シミュレーションやバスダクトが提供され、実プロジェクトでの活用も始まっていることや、意匠・構造・設備の分野が共に「Autodesk Revit」による同一プラットフォームでのBIM活用の仕組みを構築し、共通のデータ環境として「Autodesk BIM 360」のクラウド環境を利用することで、情報共有が容易になっていることなどが挙げられた。

今後の日本設計の取り組みとして篠﨑社長は「さらなる本格運用に向け、意匠・建築・設備などの専門分野がそれぞれ特性をもったBIM活用を行っているため、それを連携させられるようなプロセスの構築に取り組んでいる。社内のチームの作り方や教育についても推進している」とした。

Autodesk側としてルー・グレスパン氏は「両社が関心ある分野として、持続可能という観点で“ネットゼロ”の建物というものが挙げられる。BIMワークフローを使うことで省エネやより少ない資材での設計が可能になる部分もある。日本設計との協力でこういった問題についても取り組んでいきたい」とした。

DX推進とビックデータの活用

DX推進とビックデータの活用においての成果として篠﨑社長は「BIMの標準化が進んだことで、建物をデータベースとしてとらえる骨格ができてきたと感じている」とBIMをプラットフォームとしたデータ連携の足掛かりをつくってきたことを強調した。

  • データベース連携

    BIMとデータベース連携(出典:日本設計)

そのうえで今後は「まずは設計にはいろいろな情報が必要で、そのデータベースの整備を進めている。また、コスト概算や仕様書との連携も実現していきたい。社内のさまざまな組織や社外とのコラボレーションを促進していきたいと考えている。さらに、国土交通省が主導する“PLATEAU(プラトー)”(日本全国の3D都市モデルの整備・オープンデータ化プロジェクト)での都市モデルデータとの親和性を高めるということの検討も進めていく」とした。

今回3度目の更新となる両社のEBA。Autodeskのルー・グレスパン氏は「日本設計はAutodeskと日本においてEBAを結んだ初めてのパートナー。日本設計は日本でBIMを推進するパイオニアだと考えており、今後の取り組みも楽しみにしている」とした。

また、篠﨑社長は「日本設計はデータが武器であるが、Autodeskのような強力なプラットフォームを構築するパートナーがいないと我々の強みも活かせない。それが一緒にやっていく大きな意義だと思っている」と両社のパートナーシップの意義について説明した。

  • 記念撮影

    日本設計の篠﨑淳 代表取締役社長(左)とAutodeskのアジアパシフィック アカウント営業本部 シニアディレクター ルー・グレスパン氏(右)