中国の習近平国家主席が「祖国統一を必ず実現する」と主張し、台湾統一への強い意欲を示す一方、台湾の蔡英文総統は「全力を尽くして阻止する」と対抗姿勢を見せる事態となっているが、半導体調査会社の米IC Insightsが、仮に中国による台湾統一が実行された場合の世界の半導体シェアの変化に関する分析レポートを発表した。

米中貿易紛争は、半導体分野にも影響を与えており、HuaweiやSMICへの米国政府による制裁が行われている。IC Insightsの見解によると、中国に対する米国の貿易制裁は、中国に「ICおよびエレクトロニクス産業で将来果たして競争できるか」という疑問を投げかけることとなっているが、その質問に対して「台湾統一に集中していることが、中国の答えを明らかにしている」としている。

同社は、2020年12月時点で実施した地域・国別世界IC生産能力調査に基づいた台湾ならびに中国のIC生産能力シェアについての分析結果として、台湾は世界最大のIC生産能力(21.4%)を有しており、中国(15.3%)と合算すると約37%を占めることとなり、北米のIC生産能力の約3倍になること、ならびにTSMCを有する台湾は、世界でもっとも先端プロセス(10nm未満)のIC生産能力が高く(63%)、2番手のSamsungを有する韓国(37%)の2倍近いこと、台湾の総IC生産能力のほぼ90%が台湾資本の企業によるもので、台湾内の外資系ICファブは米Diodesが所有する150mmファブと、Micron Technologyが所有する2つの300mm DRAMファブだけであること、そのIC生産能力も300mmだけで見た場合、トップの韓国(25%)に匹敵する22%を有し、北米(11%)の2倍ほどあること、そして総IC生産能力の80%が専業ファウンドリによるもので、それら専業ファウンドリ企業が、当該市場で占める割合は約80%ほどとなっているとしている。

  • プロセス別半導体生産能力

    各国・地域別のプロセス別半導体生産能力(2020年12月時点) (出所:IC Insights)

IC Insightsによると、中国のIC生産能力は台湾ほど重要ではなく、また中国は将来の電子システムのニーズに対応できる先端ICデバイスを製造できないという問題を抱えている。この問題は、どのような手段をとるにせよ、中国の台湾統一によって解決できると中国は考えているとしている。

また、中国が台湾を武力行使で統一を試みた場合、台湾経済に混乱が生じ、中国経済も大きな打撃を受けることが予想されるが、問題は、中国が今後何年にもわたって世界の最先端かつ最大のIC生産能力を管理下に置くという長期的な利益のために、比較的短期的な経済的苦痛を受け入れる意思があるかどうかにあるとIC Insightsでは分析している。

なお、世界の主要半導体製造国の中で、日本だけ唯一40nm未満~20nm以上のプロセスの生産能力がゼロとなっている。より先端の20nm未満~10nm以上では生産能力があるが、これはキオクシアやMicronによるメモリの生産能力であり、ロジックの生産能力はゼロのままである。TSMCが22~28nmプロセスを用いたスペシャルティファウンドリを日本で建設する計画を明らかにしたが、世界のロジックの潮流は20nm未満の最先端プロセスの活用であり、今回、TSMCのファブを日本に誘致できたことで、経済安全保障の問題がすぐは解決できると考えるのは早計であろう。