宇都宮大学は10月1日、赤外光での光硬化性樹脂の開発に成功し、それを用いた自己形成光導波路による光通信部品間の自動接続に成功したことを発表した。

同成果は、宇都宮大の杉原興浩教授、同・寺澤英孝研究員らの研究チームによるもの。詳細は、光ガイド波を扱う学術誌「Journal of Lightwave Technology」に掲載された。

シリコンフォトニクスでは、サブミクロンサイズのシリコン光回路が光配線として用いられる。シリコン光回路と外部光部品であるシングルモード光ファイバー(コア径約10μm、SMF)との接続においては、コア断面積比が数倍に及ぶことによる接続損失と、サブミクロンメートルオーダーの実装精度が、解決すべき課題とされている。またSMFまたはシリコン光回路と、受発光素子との間の接続に関しても、高効率・簡易実装技術が求められている。

これらの問題を解決する技術として、スポットサイズ変換器や回折格子結合器といったさまざまな技術が検討されており、結合効率の改善は進んでいるものの、依然としてサブミクロンメートルオーダーの実装精度が求められている。

現状では、光ファイバーや光源などの実装費用、評価費用がコストの大半を占めているため、光通信モジュールの組み立てにおいて、これら光素子間の位置合わせを機械的精度のみで行う位置決め方式である無調芯接続(パッシブアライメント)化技術は重要課題の1つと考えられることから、研究チームは今回、シリコンフォトニクスデバイスのパッシブアライメント化技術を実現するため、自己形成光導波路の応用についての研究を行うことにしたという。

自己形成光導波路は、光硬化性樹脂中に光ファイバーなどから光を出射させ、ビームの伝播方向に自動的に光回路を作製する3次元光配線技術で、対向して配置した軸ずれのある光素子間も自動的に接続することが可能であり、光配線・受発光素子の実装のパッシブアライメント化・低コスト化技術として注目されている。ただし、これまで自己形成光導波路の作製に用いられる光硬化性樹脂の硬化可能な波長範囲は、紫外光~波長850nmの近赤外光に限られていたという。

そこで今回は、光通信波長1310nm~1550nm帯の赤外光に感度を有する樹脂を開発し、赤外光での光重合を実施、。実際に作製された自己形成光導波路にて、波長1310nmおよび1550nmの連続波レーザーの出力が10μWにて成功したとするほか、SMF光ファイバーのコアと軸ずれがないことも確認された。

また、同技術を用いて、シリコンフォトニクスデバイス間の自己形成光接続が行われ、双方向から波長1550nmのレーザー光を照射するだけで、自動的にシリコンフォトニクスデバイス間を接続できることも確認したという。

  • 自己形成光導波路

    自己形成光導波路の顕微鏡画像。(a)波長1310nm連続波レーザーで作製されたもの。(b)波長1550nm連続波レーザーで作製されたもの (出所:プレスリリースPDF)

今回の結果を踏まえ、研究チームでは、この自己形成光導波路と自動接続技術は、光通信デバイスの簡易実装技術への応用が期待されるとしているほか、光デバイス間の接続に、有機材料を用いた自己形成光導波路を適用することで、簡易実装プロセスの実現が期待できるともしている。

  • 自己形成光導波路

    自己形成光導波路接続の顕微鏡画像。(a)光ファイバー - 赤外面発光レーザー間。(b)光ファイバー - シリコン光導波路間 (出所:プレスリリースPDF)