ルネサス エレクトロニクスは9月29日、「Progress Update」と題して同社の状況についての説明をオンラインで開催した。録画はすでに同社Webサイト上にて見ることができるようになっているが、このイベントはトータルで3時間半、用意されたスライドは合計108枚という膨大なものであり、これを全部説明しているときりがないので、要点を絞って簡単にご紹介したい。
順調に進むDialogとの統合
まずCEOの柴田英利氏より概略について。2021年は同社にとっても色々出来事が多かった訳で、これへの振り返りやその対応などに説明が費やされたが、これらは後のセッションでも出てくるのでそちらで触れるとして、柴田氏の説明で特徴だったのは、ルネサスカルチャープロモーションという活動を始めた事(Photo01)、EGS Initiativeに関してMSCI日本株女性活躍指数(WIN)の構成銘柄入りしたこと(Photo02)、水資源の利用に関しての情報公開を進めている事(Photo03)がまず述べられた後で、Dialog買収後の経営目標を一段高くする(Photo04,05)事が示された。
またDialogの統合については、2022年1月を予定していた組織統合を2021年10月に前倒しし、2022年4月には財務の統合を行い、2023年には完全に統合が完了するというめどを示している。
Dialog買収に伴う財務的な影響はどの程度か?
次にCFOの新開崇平氏より財務関係の説明が行われた。
7月29日に第2四半期の決算発表会が行われたばかりなので、基本的な数字はこの決算発表からは変わっていないが、まずDialog Semiconductor買収による影響がこちら(Photo07)。
EPSは8%ほどの上乗せになる一方、負債は直近でEBITDAの2.7倍まで膨れ上がる。ただ実際にはDialog買収が無ければ、2021年12月には負債がEBITDAの0.8倍になる見込みになっており、買収によって一時的に2.1倍まで膨れ上がるものの、今年末には1.7倍まで削減され、2年程度先をめどに1.0倍を切る予定、という話であった(Photo08)。
またPhoto04に出てきた粗利率を引き上げるための手法に関する財務的な観点でのロードマップがこちらである(Photo09)。
高まる半導体需要への対応に向け、生産能力の増強を推進
その次は野崎雅彦氏(執行役員常務兼生産本部長)による生産状況について。
同社は先端プロセスに関しては外部Fabを利用するFab Lite戦略を取っているが、高まる半導体需要に向けてIn-Houseの、それも12インチウェハによる製造を強化してゆく予定であることが明らかにされた(Photo10,11)。
もっともIn-Houseの場合、抜本的に製造能力を増やすためにはまず建屋の増築が必要になるため、そうした方策を取らない以上はそれほど大きく供給能力は増やせない。
前処理工程にしても、8インチから12インチに製造ウェハを変更するのは、要するに生産工程すべての見直し(配送シャトルも変更になるし、機器同士の配置も見直さないと入らなくなる。そもそも装置そのものが刷新が必要になる)に繋がるから、そうそう増やすわけにもいかない。なので、こうした部分は外部からの供給を広げる(Photo10でMCUは2022年から、IGBTは2023年からOutboundが増えているのが判る)方向で進む様だ。
また生産の抗堪性を増強するという話も重要である。火災に関しては、自動消火装置の追加や、より高感度な煙探知機の配備、スプリンクラーの増設などが行われた(これは柴田氏の説明の中で行われた)が、自然災害に関しては洪水への対策などを改めてやり直すとか、原材料に関しては現在同社の製品がどんな原材料をどの程度利用するか、のデータベースを構築中だそうで、これによって原材料不足がどんな製品に影響を及ぼすかの追跡が迅速化され、最終的にはどの程度原材料の積み増しをしておけば対応できるかを厳密に判断できるようになるとの説明があった。
またAIを利用した故障検知/故障予知のシステムを現在2000箇所ほど設置しているが、向こう4年でこれを4000箇所に倍増させるとした(Photo13)ほか、同社の設備がそろそろバスタブカーブで言えば最終段階の摩耗故障期に入っている事を受けて、積極的に設備の入れ替えも始めているという話であった(Photo14)。
産業分野を中心にMCUのシェア拡大を目指す
次がIIBU(IoT and Infrastructure Business Unit)の話であるが、こちらはSailesh Chittipeddi博士(執行役員常務兼IoT・インフラ事業本部長)に加えChris Allexandre氏(執行役員兼IoT・インフラ事業本部ユニット長 グローバルセールス、コーポレートデジタルマーケティング担当)とRoger Wendelken氏(執行役員兼IoT・インフラ事業本部ユニット長 MCUビジネス担当)も加わっての説明となった。
まずこの3年間の動向を見てみると、概ね順調に成長している事を紹介し(Photo15)、同社のソリューションパッケージと言っても良いWinning Comboがうまく機能している事が説明された(Photo16)。
ところでIIBUは大幅に利益率を向上させることが求められているわけだが、それに対する間接的な回答がこちら(Photo17)。
伸びる理由の1つは、これまでの製品ポートフォリオにDialog由来の製品が加わることで、よりラインナップを強化できる事にあるとする(Photo18)。
さてそのIIBUの大きな柱がMCUであることは論を待たないが、2025年までに大幅にシェアを引き上げる、としている(Photo19)。
これについては、後のAutomotive向けの質疑応答の中で出てきた話ではあるのだが、そもそもルネサスのMCUが使われなかったのは、1つは「良いかもしれないけど使いにくい」という部分があり、こうした部分を徹底的に改善した事で顧客に使って貰いやすくなったという回答があり、これはIIBUにもおそらく共通する話であろうかと思う。
またAndes Technologyからコアをライセンスする形で取り扱いを始めたRISC-Vについて(Photo20)も、質疑応答の中でChittipeddi博士が「RISC-Vは確かにOpenではあるが、自社でこれを設計できるような能力を持つのはルネサスなど数社しかない」と思わせぶりな説明の後で、「近いうちに大きな発表を予定している」としており、あるいは自社設計のRISC-Vコアを用意しているのかもしれない。もっとも2021年4月にはSiFiveともライセンス契約を結んでいるので、まずはこちらが先なのかもしれないが。
話を戻すと、直近のDesign-Inの比率はArmベースが非常に多い(Photo21)という話で、またCortex-M0+クラス(Cortex-M23ベース?)とCortex-M7ベースのコアも新たに投入予定という話も出てきていた(Photo21)。
またIndustrial向けパワー半導体では、2021年は新製品が半分以上を占める、という見込みも示された(Photo22)。
データセンター向けで言えば、IDT由来のDDR5向けPMICやRCD、Data Bufferなどが今後急速に伸びるとしており(Photo23)、2023年には売り上げが1.6倍程度に増えるという予測が示された(Photo24)。
また5G向けに関しては今後はO-RAN対応製品が増えてゆくと予測、これも同社の製品の拡充につながるとしている(Photo25)。
新興メーカーの動きに柔軟に対応するため、直轄組織を立ち上げた自動車向けビジネス
最後が片岡健氏(執行役員兼オートモーティブソリューション事業本部長)により、自動車向けの説明が行われた。
2020年は4000億円ちかい大規模なDesign Winがあった関係で大きく伸びているが、今年はそこまで大きなものは予測されていないということで昨年より売り上げは減るものの、前半期で目標額の54%を達成しており、進捗としては悪くないとしている(Photo26)。
またDialogの買収により、自動車向けの製品群が今後拡充される点も売り上げ向上には効果的とされる(Photo27)。
その自動車向けだが、従来の自動車メーカーは設計までに数年を掛けるような息の長いビジネスが行われており、もちろんここはここで大きなマーケットではあるのだが、昨今の新興メーカーの場合、はるかに短い時間で企画→開発→製造がおこなわれるそうで、そうした新興メーカーに柔軟に対応するため、新たに片岡氏直轄の形でAutomotive New Business Creation Divisionを立ち上げた、という話であった。
面白いのはこうした新興メーカーの場合、ビジネスの規模ははるかに小さいのだが、その分、数が多い訳で、今後はこうした新興メーカー向けのビジネスが伸びしろになってゆく、という説明であった。
2021年は色々ルネサスには大変な年ではあったが、それでも柴田CEOの下でうまく方向転換というか、新しい方向性を見出して走り出した感じを受ける内容であった。今後、Dialogの統合がある程度進んだ段階で、今回説明された統合効果がどの程度現実のものとして出てくるか、が改めて説明されることを期待したい。