Infineon TechnologiesとNJR(新日本無線)は9月22日、両社が共同で60GHz帯のレーダーセンサーモジュールを開発したことを発表した。これに関する記者説明会が同日、オンラインで開催されたので、その内容をご紹介したい。
今回のセンサーモジュールは、Infineonからは60GHz帯レーダーセンサーICである「MMIC BGT60TR13C」、それと制御用のMCUとして「PSoC 6」が提供され、これをNJRがモジュールの形に仕立てた構成である。しかもNJRの方で技適を取得しており、またPSoC側に対応アプリケーションが搭載されているので、ユーザーはこのモジュールを利用して直ちにアプリケーションが作成できる形になる。
もともとInfineonはXENSIVブランドで24GHz帯および60GHz帯のレーダーセンサーチップを提供中であるが、2020年にはチップだけではなくモジュールも提供する意向を示していた。ただこの時はInfineon自身がモジュールまで開発・提供を行うとみられていたのだが、実際にはモジュールの設計・製造とサポートをNJRが担う形となった。
そのNJR、2018年には日清紡ホールディングスの完全子会社となり、2021年1月にはリコー電子デバイスとの事業統合も発表されたため、今回のモジュールが量産出荷される頃には社名が日清紡マイクロデバイスに変更される予定であるが、もともと同社はマイクロ波製品と電子デバイス製品に特化したメーカーであり、幅広い製品ラインナップを誇る(Photo02)。
そうした事もあり、同社は特にマイクロ波に関する知見や技術が豊富であり、今回のモジュール開発にもこれが生かされた格好だ。
このセンサーモジュールであるが、主要な用途として人の存在検知(Photo03)と人流検知(Photo04)が挙げられている。
同種のものは赤外線センサーとか超音波センサー、カメラなど様々な方法が世の中にあるが、赤外線や超音波に比べると検知の確実性が高いのがミリ波レーダーの特徴である。一方カメラなどを利用した存在検知や人流検知は、より高精度(というか、必要なら人物特定も出来る)などカメラにアドバンテージがあるが、その一方で例えば浴室とかトイレなどではプライバシーの問題があるからカメラを利用したソリューションは使いにくい。この辺りを勘案すると、必ずしもカメラなどを使った検知と競合するものではなく、補完しあえるのでは? というのがNJRの見解であった。
実際に存在確認のユースケース(Photo05)や人流検知(Photo06)を見ると、広範に展開する事で新たなサービスが生まれる事を念頭に置いている様に思われる。
ところでこのモジュールだが、Infineonはチップの提供とターンキーソフトウェア1の提供、それとプロモーションサイトの展開を行うだけで、モジュールの製造・販売やターンキーソフトウェア2/カスタムソフトウェアの提供などはNJRの分担となっている(Photo07)。
また存在検知と人流検知は別のモジュールが用意される格好になる(Photo08)。
ハードウェア的にはどちらも全く同じであるが、
- 内部のPSoC 6にプレインストールされているソフトウェアが異なる
- 存在検知と人流検知では電波の出し方が変わる関係で、技適は別々に取得する必要があり、それもあって製品として別になっている
という事であった。
ちなみにNJRによれば、現時点ではまずは国内向けということで技適のみを取得しており、海外の規制には対応していないが、今後は全世界展開を考えており、その際にはそれぞれの国に対応する形で認証を取得する予定との事であった。
NJRは2021年4月末にInfineonとAssociated Partner契約を結んでおり、今回の発表はこのパートナー契約に基づくもの、と考えれば良い。こちらは当然全世界対応のもので、パートナーそのものは300社以上存在するが、このうちレーダーに関するパートナーは50社以上あるそうで、今後は海外からの引き合いも増えるのかもしれない(Photo09)。
このスマートセンサーモジュール、2021年10月からサンプルおよび評価キットの出荷を開始。量産開始時期は2022年3月を予定している。まだ正確な数字は出せないが、初年度は数万台程度の出荷を見込んでおり、数年後には100万台オーダーになる様に色々プロモーション活動を活発に行ってゆく、という話であった。