沖縄科学技術大学院大学(OIST)は8月10日、リチウムイオン電池の高性能版ともいえる「リチウム硫黄電池」の最適化に取り組み、製造過程を加速させて溶解が発生する可能性を抑制すると同時に、不要な生成物を吸収するハイブリッド材料を考案し、長寿命、短い充電時間、長い1充電時間(再充電が必要となるまでの時間)を実現することに成功したと発表した。

同成果は、OIST エネルギー材料と表面科学ユニットのフイ・ジャン博士、同・ヤビン・チー教授らの研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

リチウムイオン電池を超す高性能な2次電池の開発が世界中で進められている。そうした次世代2次電池の候補の1つにリチウム硫黄電池がある。現在のリチウムイオン電池で用いられているリチウムを含む酸化物などの正極材料は、蓄電容量が限界を迎えつつあり、さらに高いエネルギー密度を持つバッテリーを実現するため、理論容量が従来正極の理論容量の最大6倍とされている硫黄正極を活用する形で実現される2次電池だという。

その商業化と普及においてネックとなっているのが、中間生成物が溶解しやすい点だという。電池を製造する際、硫黄がリチウムと反応して生成物ができるが、それには2つの段階がある。

第1段階で生成されるのが「多硫化リチウム」で、多硫化物の「ポリスルフィド」に溶解しやすい性質を持っている。ポリスルフィドは電池の性能を低下させるため、寿命が短くなってしまうという。また電池を最適化するためには、最終生成物の「硫化リチウム」に可能な限り素早く変化させる必要もある。

そこで研究チームは、不要なポリスルフィドを吸収する二酸化チタン(TiO2)と、製造過程を加速させる窒化チタン(TiN)という2種類の材料を用いて、利用しやすいハイブリッド材料を開発したところ、電池の性能を向上させる優れた効果があることが確認されたとした。

これらの材料は繊細なものであるため、効率向上に向けナノオーダーで調整を実施。その結果、10nmの窒化チタンと5nmの二酸化チタンを使用した構造が最も効率的であることを見出したという。

これにより、充電時間が短縮されるほか、再充電が必要となるまでの時間が長くなり、電池そのものの寿命も長くなったとするほか、実際に充放電を200サイクル繰り返して、その効率がほとんど変化しないことを確認したという。

なお、今後は、電池の性能を向上させるため、材料のさらなる最適化を図っていくとしている。

  • リチウム硫黄電池

    研究チームがリチウム硫黄電池を最適化するために考案したのが、反応過程を加速させると同時に不要なポリスルフィドを吸収できる構造。カーボンナノチューブのフレームワークが使用され、その上から窒化チタンと二酸化チタンの層でコーティングが施された。窒化チタンは、製造過程で発生したポリスルフィドを吸収し、二酸化チタンは、多硫化リチウムから最終生成物である硫化リチウムへの変化を加速させる役割を果たす(この画像は、Nature Communications誌に掲載された画像が加工されたもの) (出所:OIST Webサイト)