東北大学は、リチウムイオン電池の代替電池の1つとして研究開発が進むナトリウムイオン電池において、その負極材料として考えられているグラファイトのアモルファス同素体であるハードカーボンの作製で、課題となっていた無秩序構造を制御する方法として「低温脱合金法」を用いることで局所構造を精密に制御することに成功し、「アモルファスカーボン」を開発することに成功したと発表した。
また、このアモルファスカーボンを導入したモデルシステムによる調査から、ハードカーボン内のナトリウムイオンについて新たな貯蔵メカニズムを明らかにしたことも合わせて発表された。
同成果は、東北大 学際科学フロンティア研究所の韓久慧助教、東北大 材料科学高等研究所の陳明偉教授、同・工藤朗助教らの研究チームによるもの。詳細は、ナノサイエンスとナノテクノロジーを扱った米国科学誌「Nano Letters」にオンライン掲載された。
リチウムイオン電池の普及はさまざまな電子機器をどこでも駆動させることを可能にしたが、リチウムは希少金属であり、その枯渇に対する懸念などがあり、代替電池の開発が求められるようになっている。
「ナトリウムイオン電池」もその1つで、リチウムが地殻中での存在量が0.0017wt%と見積もられているのに対し、ナトリウムは2.3wt%と豊富であることから、その実用化が期待されるようになっている。
ナトリウムイオン(Naイオン)電池を実用化する上での主要な課題は、高容量かつ安定した充放電サイクルの両方を満たすことができる適切な電極材料を開発することにある。負極材料としては、グラファイトのアモルファス同素体である「ハードカーボン」が、その大容量と低コストから可能性の高い負極材料であると考えられてきたが、ナトリウムの貯蔵メカニズムの不確実性により、高性能なナトリウムイオン電池に適した先進的ハードカーボン負極の開発が進められていなかったという。
そこで研究チームは今回、原子レベルで構造の精密な制御が可能なアモルファスカーボンを用いて、ハードカーボンの局所構造とナトリウムイオンの貯蔵容量/電位との相関関係を定量的に調べることにしたという。このメカニズムに関する研究から、ハードカーボン内に電気化学的に異なる3つのナトリウムイオン貯蔵サイトがあることが明らかになったとする。
今回の研究で使用されたアモルファスカーボン材料は、室温で「化学脱合金法」によって「ニッケルカーバイト」から合成された。この材料には均一に分配された豊富なマイクロポア(孔径~0.55nm)があり、また局所構造はさまざまな温度で熱処理することによって調整することが可能だという。
今回は900℃、1300℃、1800℃の3通りの温度で熱処理されたサンプルが作製された。900℃で熱処理されたサンプルは、炭素が完全にランダムな領域のみとなる。1300℃の場合は、ランダムな炭素領域とグラファイト状領域の両領域が混合した状態だ。1800℃の場合も両領域が存在するが、1300℃のサンプルよりもグラファイト状領域が多くなることが判明した。また、900℃で処理された炭素は、従来のハードカーボンと異なりサンプル全体にわたってランダムな原子構造(アモルファス構造)を有する特殊なもので、今回の研究での標準サンプルとして優れているとしている。
研究チームでは、これら3つのサンプルの充放電挙動と電気化学的動力学の実験結果を包括的に比較。その結果、ハードカーボン内部でのナトリウムイオンの「吸着-挿入」メカニズムの存在が判明したほか、完全にランダムな原子構造を有する900℃で処理された炭素を使用したベンチマークとしての定量的測定から、中電位の傾斜部分の新しいメカニズムが明らかにされたという。
その結果、以下の3ステップからなる新しいモデルが提案された。
- 低電位領域の局所グラファイト領域におけるナトリウムイオンの挿入
- 中電位領域のグラファイト領域における欠陥のある箇所でのナトリウムイオンの吸着
- 全電位における完全にランダムな炭素内でのナトリウムイオンの吸着
なお、今回の結果は、ハードカーボン内のナトリウムイオンの貯蔵に関する重要な実験的証拠と新しい観点を示すものであることに加え、ハードカーボン内のさまざまな局所構造が有するナトリウムイオンの貯蔵に関する電気化学的動力学が体系的に調査されたものであることから、研究チームは今後、高性能ハードカーボン負極の設計とナトリウムイオン電池の実用化を促進することが期待されるとしている。