経済産業省傘下の新エネルギー・産業技術総合機構(NEDO)は、7月15日に脱炭素化事業を進める技術開発・事業化の中核技術のひとつとして期待されている燃料電池の普及拡大に向けた研究開発と実証事業向けに、24件の新たな燃料電池関連の研究開発テーマを採択し、プロジェクトを始めると発表した。
今回発表されたプロジェクトは、2020年度から2024年度までの予定で進められている「燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業」の一環として進められ、テーマの一部はすでに2020年度から実施中だが、新たに採択された24件の研究開発テーマは、今後さらに補強すべき分野だといい、具体的には「燃料電池のセパレーターやガス拡散層(GDL)などの要素技術を拡充する研究開発テーマと同時に、農機や建機、港湾荷役機器、ドローンなどの多様な用途向け電源として燃料電池を活用・拡大する実証事業に着手した」とNEDOは説明する。
2021年度分の研究開発予算総額は66.7億円であり、これを基に今年度から24件の研究開発プロジェクトを始め、2024年度までの4年間にわたって当該プロジェクトを実施するという。
新たな24件の技術開発プロジェクトを進めることで「日本で2030年以降に燃料電池利用技術を飛躍的に普及拡大させ、日本での“水素利用社会”を実現する基盤技術を築く」と、担当部門であるスマートコミュニティ・エネルギーシステム部は説明する。
同プロジェクトは、固体高分子形燃料電池(PEFC)や固体酸化物形燃料電池(SOFC)等に関する要素技術を開発する「研究開発項目1 共通課題解決型基盤技術開発」、水素関連技術の高度化に資する技術開発や、PEFCやSOFCの性能やコスト目標を凌駕する燃料電池の実現に向けた革新的な要素技術の開発を目的とした「研究開発項目2 水素利用等高度化先端技術開発」、燃料電池ユニット等の多用途展開を目指す「研究開発項目3 燃料電池の多用途活用実現技術開発」といった3つのテーマで公募を行った。
「共通課題解決型基盤研究開発」としては、PEFC(固体高分子形燃料電池)向けに低接触抵抗・高耐久性セパレーターの表面処理技術開発、セルを積層するためのシール部材の開発、導電性ナノファイバーを用いたMPL(マイクロポーラス層)の研究開発、GDL(ガス拡散層)一体型フラットセパレータの研究開発といったテーマが採択された。
「水素利用等高度化先端技術開発」としては、PEFCとSOFC(固体酸化物形燃料電池)の利用促進を図るために、非白金電極触媒の研究開発、膜―電極接合体の界面構造の高機能化に関する研究開発、新規電解質膜の研究開発および性能評価といったテーマが採択され、この研究を進めて基盤技術を拡充し、利用拡大を図る目的だ。
また、水素利用等高度化先端技術開発として、燃料電池の利活用に必要不可欠な「水素貯蔵技術」関連のテーマも募集され、水素貯蔵システムのさらなる強じん化・低コスト化に向けて、新規樹脂材料を用いた革新的なタンク製造プロセスの開発、水素貯蔵効率向上に向けた水素貯蔵タンクの開発、機械学習を用いた水素貯蔵タンクの最適設計技術に関する検討および実証研究などのテーマが採択された。
「燃料電池の多用途活用実現技術開発」の項目では、燃料電池駆動の農業用トラクターや油圧ショベル、港湾荷役機器、ドローン、小型内航船などの開発・実証を図る研究開発プロジェクトを進めるとし、同時に「燃料電池発電モジュールの開発、高圧水素タンク、膜―電極接合体の高速検査を実現する革新的X線検査技術の開発も進める」とスマートコミュニティ・エネルギーシステム部は説明する。
そして、事実上停滞している家庭用燃料電池事業や燃料電地搭載自動車の事業を再活性化させ、さらに各種の燃料電池を多彩な用途に展開する水素利用社会を実現させる基盤を築く計画だ。