日本のDX(デジタルトランスフォーメーション)は、海外の比べて遅れているといわれるが、実際のところどうなのか。また、新型コロナウイルスによる進捗の遅れはないのか。セールスフォース・ドットコムで中小企業を担当する専務執行役員 コマーシャル営業 千葉弘崇氏に、中小企業のDXの現状や課題、成功のポイントを聞いた。

日本の中小企業のDXが世界と比べて遅れているといわれていますが、実際、どう感じていますか?

セールスフォース・ドットコム 中小企業担当 専務執行役員 コマーシャル営業 千葉弘崇氏

千葉氏:コロナの問題が発生して、われわれも9割近くがWebミーティングとなり、一般企業ではWeb会議は当たり前で、チャットツールによるコミュニケーションもスムーズにいっているので、コロナによる劇的な変化が中小企業にも起きており、デジタル変革は社内においても、社外においてもかなり進んでいると感じます。

新型コロナウィルスの影響で、改革のスピードが落ちたり、投資を抑えようという動きはないのでしょうか?

千葉氏::この機に改革を推進していこうとする企業が多いと感じます。躊躇する企業もありますが、これまで改革を進めてきた企業も、電話システムををセールスフォースとつなげる、ユーザーコミュニティをつくる、インターネット通話に切り替えるなど、さらにデジタル化を推進していこうという動きが数多くみられます。

DXは、どういった領域でニーズがあるのでしょうか?

千葉氏:DXをどこから手を付けていいのかわからないという悩みはわかります。いろいろな業務やプロジェクトがある中で、どういう優先順位でやっていくかというのは、難しい判断だと思います。

ビジネスの成果は、相手の価値を引き出すこと、すなわち、お客様に喜んでいただいた対価として売上があります。これは、ビジネスの根本だと思います。そのため、顧客情報を誰もがわかりやすく、どこからでもアクセスできる状態をつくることのデジタル化を最初にやるべきだと思います。すなわち、お客様ごとに最適な製品を提案できる部分を最優先ですべきだと思います。この部分を選んでいるユーザーは多いと思います。

新規のお客様では、CRMの情報が会社にいかないとわからないという課題を解決し、在宅でも生産性を落とさずに業務を行いたいというニーズは強いです。

また、新たな顧客を獲得していく、獲得したお客様を維持していくことをリモートでも行えるようにしたいという部分にもニーズがあります。

DXに関して、業種ごとに特徴はあるのでしょうか?

千葉氏:業種で大きく違うというのは感じません。われわれはスタートアップ、歴史のある老舗企業、大都市圏の企業、それ以外の地方の企業という4つのセグメントで考えていますが、それぞれの中で成功している企業の取組を横展開するようにしています。

DXを進める上での課題は何でしょうか?

千葉氏:中小企業の場合は人員不足があり、一人の人がたくさんの業務を行っています。情報システム専任の人材がいない企業や、総務や営業と兼務しているという例もあります。そのため、属人化してしまい、その人のノウハウをベースにDXが進んでしまうことに課題を感じる経営者の方はいらっしゃいます。

また、ITと業務の両方の知識を合致させて進めていくのがいいと思いますが、ITの専門家を社内に置けないという課題を抱えている企業は多いと思います。

DXを成功させている企業の特徴やポイントは?

千葉氏:まず、経営者がリーダーシップを発揮している企業は成功しています。また、社長と同レベルの権限をもっているプロジェクトマネージャーがいるなど、社内に経営者の参謀としてDXを推進している人材を置いている企業は成功しやすいと思います。

外部のシステムベンダーの力をうまく活用していくこともポイントだと思います。システムやソリューションは導入したら終わりではなく、導入後、社内に浸透させていくことも必要で、情報の見やすさといったノウハウをもった外部の力をうまく使える企業はDXが成功しているとい思います。

また、ユーザーどうしのコミュニケティで解決するケースもあります。コミュニティで悩みを相談すると、ユーザーが解決策を示してくれることもあります。ベンダーばかりに聞くと、ベンダーロックインになる可能性もありますから(笑)。

逆に、DXで失敗するケースはありますか?

千葉氏:担当者の領域だけが効率化され、結果として部分最適になり、サイロ化している例はあります。また、システム化しても、現場で使われないという例もあります。この点については、現場だけでDXを進めるのではなく、さきほど語ったように、SIerさんなど外部の力をうまく活用していくべきだと思います。これらの人たちはこれまでの経験があり、過去の事例から得たノウハウをもっています。同じように困っているケースはたくさんありますから。

御社の中小企業向けの戦略は?

千葉氏::なかなか解決策がみつからない、モヤモヤしてるユーザーに寄り添っていきたいと思っています。中小企業だから、資金がないから、リソースがないからDXが進まないのではなく、これまで少ないコスト、リソースで解決した事例は多くあります。コロナ後にビジネスを伸ばしていける会社を1社でも多く支えていきたいと思います。弊社は日本に進出して21年目になりますが、これまでずっと中小企業のお客様には、弊社が直接販売し、保守を行っていますので、今後もDXを進めていくことに貢献したいと思います。

これまでDXで成功している企業の事例をたくさん出しながら、ユーザーの方にイメージしていただいてDXを行えば、これまでより絶対によくなるという自信はあります。ぜひ、DXで企業の付加価値を上げていただきたいと思います。