欧州宇宙機関(ESA)とロシア国営宇宙企業ロスコスモスは2021年7月2日、2022年の打ち上げを目指して開発中の火星探査車「エクソマーズ2022」の、パラシュートの高高度降下試験を実施した。

パラシュートの開発はこれまで難航していたが、予定どおりの減速を達成し、試験は成功。来年の打ち上げに向け光が差した。

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    エクソマーズ2022のパラシュート試験の様子 (C) Vorticity via ESA

エクソマーズ2022

エクソマーズ(ExsoMars)は、ESAとロスコスモスが共同で進めている火星探査ミッションで、2016年に打ち上げられた「エクソマーズ2016」と、2022年に打ち上げ予定のエクソマーズ2022の2段階からなる。

エクソマーズ2016では、火星を回る軌道から地表や大気を観測する「トレイス・ガス・オービター(TGO)」と、火星への着陸技術を実証する試験機「スキアパレッリ(Schiaparelli)」を送り込んだ。前者は現在も探査活動を続けているが、後者は着陸に失敗している。

一方エクソマーズ2022では、ESAが開発する探査車「ロザリンド・フランクリン(Rosalind Franklin)」を、ロスコスモスが開発する着陸機「カザチョーク(Kazachok)」で火星の地表に送り込み、探査を行うことを目指している。

ロザリンド・フランクリンとカザチョークは当初、2018年に打ち上げられる予定だったが、予算不足などにより開発が遅延。地球から火星へ探査機を打ち上げるのに適したタイミングは2年2か月ごとにしか訪れないため、2020年に打ち上げ延期となった。

しかし2020年には、パラシュートの開発の遅れや、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、さらに打ち上げが延期。現在は2022年9月20日から10月1日の間に打ち上げられる予定となっている。

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    エクソマーズ2022の想像図。右手前が探査車ロザリンド・フランクリン、左奥がカザチョーク (C) ESA/ATG medialab

エクソマーズ2022のパラシュート

遅れの原因となったパラシュートは、直径15mの超音速パラシュートと、直径35mの亜音速パラシュートからなる。

火星の大気圏に突入したエクソマーズ2022は、まず耐熱シールドで熱に耐えたのち、大気を超音速で降下している中で超音速パラシュートを展開。亜音速まで減速したのち、亜音速パラシュートを開いてさらに減速する。最終的には、逆噴射ロケットを噴射しながら火星の地表に舞い降りる。

両機関は2019年と2020年に、探査機を模したおもりを付けた状態で、パラシュートの落下試験を行うも、連続して失敗。それを受け、火星への探査機の着陸で多くの実績をもつ米国航空宇宙局(NASA)ジェット推進研究所(JPL)の協力を得て、設計を改良した。また、改良・開発が失敗した場合に備え、NASAの火星探査車「パーサヴィアランス」のパラシュート・システムを製造した米国のメーカー、エアボーン・システムズに、技術サポートとバックアップ用のパラシュートの製造を発注した。

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    エクソマーズ2022のパラシュート・システムの展開シークェンスを示した想像図 (C) ESA

そして6月24日と25日に、スウェーデンのキルナにある、スウェーデン宇宙宇宙公社のエスレンジ施設で試験を実施。ヘリウム気球を使い、カザチョークを模したおもりを高度29kmまで運び、そこから落としてパラシュートを展開する形で行われた。

1日目の試験ではエアボーン・システムズが製造したバックアップ用パラシュートのうち超音速パラシュートの試験が行われ、無事に成功。そして2日目には、イタリアのアレスコスモ(Arescosmo)が製造した改良型の亜音速パラシュートの試験が行われた。

ESAによると、超音速パラシュートは「完璧に動作」し、一方の亜音速パラシュートは「完璧な性能ではなかったものの、改良したことで大幅に改善された」という。亜音速パラシュートはもともと、キャノピー(傘のように広がる部分)と、展開前のパラシュートを収めているバッグとの間に摩擦の問題を抱えていたが、改良により解消したとみられるという。

また、亜音速パラシュートが展開する際、パイロット・シュートと呼ばれる、メインのパラシュートを引き出すために先に展開する小さなパラシュートが、予期せず外れるという問題が起きたという。ただ、これによって生じた裂け目はケブラー製の補強リングの中に収まったことから大事には至らず、また損傷してもなお減速は予定どおりで、降下モジュールを模したおもりは良好な状態で着陸、回収できたとし、ESAでは「試験は成功」としている。

開発チームは今後、今回新たに発生した問題の原因について調査、対策し、今年10月から11月にかけて、米国オレゴン州で行う次の落下試験に臨むとしている。

ロザリンド・フランクリンとカザチョークが予定どおり2022年9月20日から10月1日の間に打ち上げられた場合、火星には2023年6月10日に到着する。着陸場所は、火星の北半球にあるオキシア平原(Oxia Planum)が予定されている。

着陸後、ロザリンド・フランクリンはカザチョークから発進し、地表に降り立ち、火星を走行しながら探査する。オキシア平原は過去に水が流れていた可能性があると考えられており、火星に生命が存在したかどうかを調べるとともに、火星における水の歴史を深く理解することを目的としている。

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    試験後、地上に着陸したパラシュート・システム (C) Vorticity via ESA

参考文献

ESA - First high-altitude drop test success for ExoMars parachute
https://www.roscosmos.ru/31745/