国際宇宙ステーション(ISS)に約半年間滞在し、2021年5月2日に地球に帰還した野口聡一宇宙飛行士が27日、会見した。

現在は米国航空宇宙局(NASA)のジョンソン宇宙センターでリハビリ中で、身体の状態は良好。会見では、クルー・ドラゴン宇宙船や、約10年ぶりに訪れたISSの印象、そして将来の活動などについて語られた。

  • 野口聡一宇宙飛行士

    会見する野口聡一宇宙飛行士 (C) JAXA

「水の惑星に帰ってきたんだな」

野口聡一宇宙飛行士は1965年生まれで現在56歳。1996年5月に宇宙開発事業団(NASDA、現JAXA)の日本人宇宙飛行士候補者に選定され、2005年7月には、スペース・シャトル「ディスカバリー」によるSTS-114ミッションで初の宇宙飛行を経験。2010年6月には、ロシアの「ソユーズTMA-17」宇宙船に搭乗して2回目の宇宙飛行に飛び立ち、ISSに長期滞在した。

そして2020年11月16日、米国の民間企業スペースXが開発した新型宇宙船「クルー・ドラゴン」の、初の実運用ミッション「Crew-1」で、3回目の宇宙飛行に出発。ISSに約167日間滞在し、2021年5月2日にフロリダ沖の海上に着水、地球に帰還した。

ISSの滞在時間は通算で335日17時間56分となり、日本人宇宙飛行士で最長となった。

現在は、テキサス州ヒューストンにあるNASAジョンソン宇宙センターでリハビリに励んでいる。身体の状態や経過は順調だという。

帰還時の状況について問われた野口氏は「クルー4人、和気あいあいと、喋り続けながら帰還を楽しめました。クルー・ドラゴンには大きな窓があり、私が座っていたところの目の前にもあったので、宇宙から地球に至るまでの景色の変化、外が(再突入時のプラズマで)オレンジ色に染まっていく様子、その光がコクピットのパネルに反射してオレンジ色になる様子などがはっきり見られたのが楽しかったです」と語った。

また、「ソユーズの場合は地上に着陸するため、衝撃が大きく、高度500mを切ると『舌を噛むからしゃべるな』と言われていたのですが、クルー・ドラゴンは海に着水する形で帰還するため、とても衝撃が小さく、子ども用のウォータースライダーでバシャーンとなる感じで、とても楽でした」とも語った。

クルー・ドラゴンとソユーズとの違いでは、「ソユーズで帰ってきたときには、ハッチが開いた瞬間、草原の匂いを感じたのが印象に残っていますが、今回は海に着水したこともあり、ゆらゆら揺れて『水の惑星に帰ってきたんだな』ということが実感できました」ともコメント。また、「どうやら周囲をイルカが泳いでいたようで、地球に帰還した私たちを出迎えてくれたようです。そしてハッチが開いた瞬間は、潮の香りとともに、回収船の船の上の音や重油の匂いを感じたのが印象に残っています」と語った。

そして、米国に直接帰還できたこともよかったという。「着水から6~7時間後にはヒューストンに戻ることができました。リハビリや医学検査が比較的早くできたのがよかったです。ソユーズに乗ったときと比べると10歳も歳を取ってしまいましたが、身体の状態は10年前より楽です」と語った。

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    地球に帰還し、クルー・ドラゴンから下船した野口聡一宇宙飛行士 (C) NASA/Bill Ingalls

ISSでの長期滞在を振り返っては「4回目の船外活動や、『シグナス』補給船のキャプチャーを担当できたことが、宇宙飛行士としての技量を示せたという点で印象に残っています」と回想。

「とくに印象を残っているのは、JAXAがアジア太平洋地域に声をかけて始まった、宇宙バジルの研究『Asian Herb in Space宇宙教育実験』です。宇宙空間で植物を育てるというのは、とても大事な実験です。とくに今回の実験では、バジルがった一晩でも成長して変化することがはっきりわかり、地球の大地がなくても植物が育つこと、そして宇宙でも生物が生きられるのだということを実感できました」と語った。

そして約10年ぶりにISSに訪問したことをめぐっては、「10年前と比べ、物があふれてるなぁとびっくりしました。どうしても古いものが残ってしまうので仕方ないのですが……。これから断捨離の時代に入るのではと思います」とコメント。

「一方で、空気中の酸素や二酸化炭素の濃度を一定に保つ装置などは、安定して稼働し、安心感がありました。またトイレなども信頼度が上がっており、10年前よりよくなったなと感じました」とも語った。

  • 野口聡一宇宙飛行士

    ISSにドッキング中のクルー・ドラゴンCrew-1 (C) NASA

今後の活動は?

今後の活動については、「いまのところは、宇宙長期滞在を終えたところなので、これから“地球長期滞在”に臨むところであり、まずは地球に慣れたいと思います」と冗談を飛ばしたあと、「プロの宇宙飛行士として、3回の宇宙飛行の経験をどう活かすのがいいのか、これから考えていきたいと思います」と語り、「とくに、これから『アルテミス』計画や『ゲートウェイ』計画で、国際宇宙探査の時代に入っていき、日本も重要な役割を果たします。日本がプレゼンスを発揮するために、私の力を活かしていただければありがたいです」と続けた。

また、「日本も高齢化社会に入ってきて、今後も60代に近い若田光一宇宙飛行士、古川聡宇宙飛行士が飛び立つ予定です。米国では、NASAの宇宙飛行士を引退したあと、民間企業の宇宙飛行士となって民間人を連れて行くというミッションも始まろうとしており、60代のロペス=アレグリアさんやペギー・ウィットソンさんが船長を務めることになっています。ですから、(50代の)私もまだまだご隠居ぶってはいられないですね」と語り、笑いを誘った。

そして「私も、4回目、5回目の飛行のチャンスはきっとあると思っています。そのための準備は続けていきたいと思います」と、力強く語った。

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    会見する野口聡一宇宙飛行士 (C) JAXA