東北大学ならびに東京大学は5月25日、「2次元有機・無機ハイブリッドペロブスカイト」にキラル分子を導入して反転心を持たない磁石の材料設計に成功し、身の回りにある磁石が出すような弱い磁場で、眺める方向により明るさが変化する機能を発現させることに成功したと発表した。
同成果は、東北大 金属材料研究所の谷口耕治准教授、同・宮坂等教授、東大大学院 新領域創成科学研究科 物質系専攻の有馬孝尚教授、同・阿部伸行助教(現・日本大学文理学部准教授)らの共同研究チームによるもの。詳細は、独・化学会誌「Angewandte Chemie International Edition」に掲載された。
近年、有機物と無機物で構成されるペロブスカイト型構造を持った化合物、つまり有機・無機ハイブリッドペロブスカイト(OIHP)が注目を集めている。その理由は、低温かつ簡便なプロセスでの合成が可能でありながら、実用化レベルの高効率の太陽電池材料となるからだ。また、光検出器や発光ダイオードなどのフォトニクス材料としての優れた特性も報告されるなど、光機能の開拓が精力的に行われている。
これまで、OIHPやその類縁体における光機能の開拓は、有機分子と鉛ハロゲン化物の無機骨格から結晶構造が構成される、非磁性の化合物を用いて行われてきており、光と電気の結合に焦点が当てられてきた。一方、OIHPやその類縁体の層状化合物(2D-OIHP)では、無機骨格に磁性元素を導入して磁石を作れることが知られていたが、光と磁性の結合を利用した光機能の開拓は、これまで行われていなかったとする。
そのような背景のもと、共同研究チームは今回、OHIP系材料において、物質を眺める方向によって明るさや色が違って見えるという奇妙な磁気光学現象である「光学的電気磁気効果」が期待される、反転心を持たない磁石(強磁性体)の開発に挑むことにしたという。なお反転心とは、空間座標(x,y,z)を(-x,-y,-z)に変換する際の原点のことをいう。
具体的には、有機物と無機物のナノシートが交互に積み重なった層状の2D-OIHPにおいて、無機骨格に磁性元素を組み込めるのに加えて、サイズが大きな分子でも導入できる点が着目された。強磁性を示す2D-OIHP銅塩化物にキラル分子が導入され、空間反転対称性の破れが誘起された。
開発された化合物では、空間反転対称性が破れた結果、キラリティだけでなく極性(正負の電荷が偏って現れた状態)の発生も確認された。強磁性状態でこの極性軸方向と垂直に磁場が印加されたところ、光学的電気磁気効果の観測に成功したとした。さらにこのような光応答を、我々の身の回りにある永久磁石が出すような弱い磁場で制御できることが見出されたという。
今回の研究により、OIHP系材料が、光-電気結合だけでなく、光-磁性結合による光機能材料としても期待されることが明らかとなった。光学的電気磁気効果が発現しうる、新しい極性強磁性の開発は、無機化合物で対称性の制御が難しいことから、これまでは物質設計性の高い分子性化合物で行われてきたという。
しかし、光学的電気磁気効果の観測に至った例はなく、今回の研究の2D-OIHPが、初の光学的電気磁気効果を示す物質開発例になるとした。これは、有機分子を介して導入された空間反転対称性の破れの影響が、無機層に反映されるという、最近明らかになってきた2D-OIHPの特性によるものと考えられるとする。
今回開発された材料には、低温にしないと光学的電気磁気効果が発現しないという課題が存在する。しかし今後、室温以上の強磁性転移温度を持つOIHPの開発を進めることで、光スイッチや光アイソレータといった、さまざまなスピンフォトニクスデバイスへの応用展開が期待されるとしている。