東京大学(東大)、大阪大学(阪大)、北海道大学(北大)、東京理科大学(理科大)、学習院大学、理化学研究所(理研)の6者は5月21日、「擬一次元タンタルセレナイド(TaSe3)」がスピン流を生成する「トポロジカル絶縁体状態」にあることを示すと共に、その結晶を少し歪ませるだけで、通常の絶縁体へと容易に変化させられることを見出したと発表した。
同成果は、東大 物性研究所のChun Lin大学院生、同・野口亮大学院生(当時)、同・黒田健太助教、同・近藤猛准教授、阪大大学院 理学研究科の越智正之准教授、北大大学院 工学研究院 応用物理学部門の丹田聡教授、同・迫田將仁助教、理科大 理学部第一部物理学科の野村温助教、学習院大 理学部物理学科の坪田雅功助教、東大大学院 工学系研究科の有田亮太郎教授(理研 創発物性科学研究センター チームリーダー兼任)らの共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の「Nature Materials」にオンライン掲載された。
電子には電荷とスピンという2つの値を持ち、スピンを活用したスピントロニクスが、次世代技術として研究開発が進められている。その実用化のためには、向きの揃ったスピンが流れるスピン流の生成と、その制御技術の実現が求められている。そのスピン流を生成可能な物質として期待されているのがトポロジカル絶縁体だという。
トポロジカル絶縁体は、物質内部の電子はスピンの向きが乱雑で互いに相殺し合うためスピン流を形成しないが、最表面にはスピンの向きが揃ったスピン流が自動的に流れるという特異な性質がある。この内部と表面の関係は強固で、物質をいくら切り刻んでも、それぞれの破片の表面には必ずスピン流が形成される。そのため、表面積を稼ぐ物質設計ができれば、限られた空間に大量のスピン流を形成することができることが期待されている。
また、物質に磁場や電場を印加しなくても自動的にスピン流が流れることが利点とされているが、そのためスピン流を流す・流さないのON/OFF制御が難しいとされており、その実現手法として、トポロジカル絶縁体を意図的に通常の絶縁体へと切り替える相転移の利用が考えられているという。
先行研究から、トポロジカル絶縁体の一部の元素をほかの元素で置換することで、通常の絶縁体へと相転移させられることが実証されているが、元素置換は手間暇がかかり瞬時に施すこともできないため、デバイスへの応用には、現実的な手法ではなかったとされてきた。
そこで研究チームは今回、タンタルセレナイド(TaSe3)に着目。先行研究によって、この物質がトポロジカル絶縁体状態を発現することが理論的に予想されていたことから、実験的に実証を開始。その結果、角度分解光電子分光実験によってTaSe3の電子構造が調べられ、トポロジカル絶縁体状態の特徴となる表面特有の電子構造が見出されたとする。
また、スピンの向きを決定する実験により、その電子構造がスピン偏極しており、TaSe3の表面にスピン流が流れていることが確認されたことで、同物質がトポロジカル絶縁体状態にあることが実証されたとする。
さらに、基板に試料を載せ、基板を徐々にたわませながらTaSe3の電子構造の測定を実施したところ、試料に加わる力が、あるしきい値を超えたところで電子構造にギャップが開き、電気伝導を担う電子構造が消失することが見出されたとしており、これはトポロジカル絶縁体状態から通常の絶縁体状態へと相転移したことを意味するものであるとするほか、基板のたわみを解除すると、スピン流を象徴する電子構造が復活し、再度トポロジカル絶縁体状態へと転移することも確認されたという。
今回の成果について研究チームは、スピン流を容易にON/OFF制御する新たな手法を提案するものであるとしており、この簡便な手法を用いた応用研究が今後期待されるとしている。
また、相転移を起こす物質への歪みは、電圧をかけることで伸び縮みする特性を持つピエゾ素子を用いることで実現可能であることから、スピン流の制御方法として、今回の研究で用いられた手法が今後、スピントロニクスデバイスの開発において応用されることが期待されるともしているほか、今回の成果を参考に、引っ張ったり押したりの応力を物質に印加することで新奇なトポロジカル物性を創発する研究が、今後活発化することも予想されるともしている。