COVID-19の問題が持ち上がって以来、開閉式の窓を備えた電車では大抵、一部の窓を少し開けた状態のままで走るようになった。昔の非冷房車時代の地下鉄では、開いた窓から轟音が入り込んできて、車内での会話はままならなかったが、2020年代にもなって同じ経験を繰り返すとは思わなかった。

窓が固定式で換気できるの?

さて。在来線の通勤電車なら窓は開閉式だから、換気のために窓を開けることができる(もちろん、それとは別に換気装置も付いている)。それに、頻繁に停車して側扉を開閉しているから、これも換気の一助になる。そしてラッシュ時の車内は静かなものだから、会話は少ない。

通勤電車がクラスターの発生源にならない理由は、こうした事情による。時々(?)、「こんなに混んでいるのだから、通勤電車は危ない。クラスターにならないはずがない」と主張する人がいるが、それは「三密」のうちのひとつの要素しか見ていない。通勤電車では会話は少ないし、換気が行き届いている。

では、通勤電車以外はどうか。特急車や新幹線は窓が固定式だし、停車は少ない。出入台が独立しているから、停車駅で側扉を開閉しても、客室内の換気にはあまり関係なさそうだ。では、特急車や新幹線は危ないのか。そんなことはない。

いちいち意識する必要がないから知られていないだけだが、窓が固定式になっている車両なら必ず、外気を取り入れたり、車内の空気を車外に排出したりするための換気装置が付いている。これは新幹線でも同じだ。ただし、空調装置と換気装置が別個に付いているケースと、一体になっているケースがある。

新幹線電車の場合、最初に登場した0系では、換気と空調はまったくの別系統。外気を車内に送り込む送風装置は屋根に組み込まれていた。それとは別に、これも屋根部分の中央に10台前後の空調装置が設けられていた。

送風装置から送り込んだ外気は、空調装置の下部で上向きに吹き出して、それが空調装置で温度調整された後で客室に送り込まれる。排気の方は、左右の壁際・足元に排気風道があり、そこから車外に向けて強制排出する。外部から送り込む空気の量と、外部に排出する空気の量を揃えることで、車内の気圧は一定に保たれる。

今の空調装置は床下設置が基本

今の新幹線電車も、基本的な考え方は似ているが、空調装置の設置場所とダクトの構成、そして一部再循環を行うようになったところが違う。

まず、空調装置の設置場所だが、在来線では屋根上に設置している場合が多い。しかし新幹線では、車体断面を小さくする必要と重心を下げる必要から、空調装置は一部の例外を除いて床下設置となっている。例えばN700Sの場合、海側(新大阪方に向かって左側)の床下、新大阪方の台車直後に空調専用機が、東京方の台車直前に空調・換気兼用機がある。

  • N700Sの1号車。床下の、大きなルーバーがついている機器が空調装置で、右側が空調・換気兼用機

    N700Sの1号車。床下の、大きなルーバーがついている機器が空調装置で、右側が空調・換気兼用機

空調専用機は車内から排出した空気に対して、温度調整を行った上で再循環させている。もちろん、車内から出てきた空気はフィルターを通して、余計なものを取り除いている。これは、以前に小誌で紹介した飛行機の空調換気システムと似ている。それに対して空調・換気兼用機は、外気を取り込んで車内に送り込む機能と、車内の空気を外部に排出する機能が加わっている。N700Sの場合、空調・換気兼用機には大小の開口部が付いているが、そのうち小さいほうが排気用だ。

一部の空気を循環させるほうが、空調機器にかかる温度調整の負担が減少する。しかし、クルマで内気循環にしたまま走っていると車内の空気が悪くなるのと同様、電車でも内気循環のままとは行かない。そこで、適切に車内の空気が入れ替わる範囲で、一部を循環させている。