名古屋大学(名大)は4月9日、磁場を加えることで、これまでにない新しい機構により体積が大きく膨張する物質を発見したと発表した。
同成果は、名大大学院 工学研究科の岡本佳比古准教授、同・兼松智也大学院生(当時)、同・竹中康司教授らの研究チームによるもの。詳細は、米国科学誌「Applied Physics Letters」にオンライン掲載された。
固体の物質に磁場を与えたとき、長さが変化する現象は「磁歪(磁場誘起歪)」と呼ばれ、磁石になるような強磁性体は必ず磁歪を示すことがわかっている。
ただし、通常の強磁性体における磁歪の大きさは、1~10ppm程度とされるが、中には超磁歪合金といわれる「Terfenol-D」のように、1000ppmを超える巨大な磁歪を示す物質もある。
そのような巨大な磁歪を持つ磁歪材料は、その特性である大きくて高速な磁場応答を活かして、磁場により変位や駆動力を得る磁歪アクチュエータ、磁歪振動子を用いた超音波発生器、非接触の力・変位センサなどで実用化されている。特に、圧電効果を用いたアクチュエータは精密位置制御などに幅広く利用されていることが知られているが、その材料である「チタン酸ジルコン酸鉛」(PZT)は有毒な鉛を含むため、PZTに代わる有毒物質を含まないアクチュエータ材料の開発が求められていた。
しかし、これまで発見されてきた大きな磁歪を示す材料は、磁歪が主に強磁性体における「磁区」の磁場によって成立することから、いずれも磁石になるような強磁性体であり、これら以外のさまざまな磁性体において大きな磁歪を示す例はほとんど知られていなかった。
そうした中、研究チームは磁石にはならない反強磁性体である銀(Ag)とクロム(Cr)を含む硫化物「AgCrS2」が、大きな磁場誘起歪を示すことを発見。焼結体の試料に対して9Tの磁場を与えたときに、最大で730ppmの体積膨張を示すことを確認したという。
この磁場中の体積膨張は、従来の磁歪材料にないさまざまな特徴を持つという。例えば、主に形状が変化し、体積は大きく変わらない従来の磁歪とは異なり、磁場中で形状を保ったまま体積が大きく膨張する。このことは、研究チームが発見した磁場誘起歪が、磁場による軸の整列によるものでないことを示すという。
また、大きな歪みが反強磁性が秩序的になる-231℃(42K)付近においてのみ現れ、かつ形状記憶合金のように熱弾性的な性質を持つことも確認。
これらの結果は、この磁場誘起歪が、相変化現象を利用した新しい発現機構により生じていると考えられるとする。具体的には、一次相転移における二相共存状態が、大きな歪みの発現にとって重要な役割を果たしていると考えられるとしている。
今回の発見は、これまで材料開発の対象とされてこなかった反強磁性体が、磁歪材料やアクチュエータ材料として有望であるということを示しているという。そのため、研究チームは、今回の研究が引き金となって、反強磁性体における磁歪材料やアクチュエータ材料の開発が進むと同時に、自発磁化を持たないなどのさまざまなを反強磁性体の特長を活かした新たな応用の開拓が期待されるとしている。